この人が退院してよかった。
★★★★★
統合失調症は、100人に一人。
入院できる病床は、医療機関全体で160万床、精神科の病床はその四分の一。
新聞や白書に書かれた数字であれば、これほど迫ってこないだろう「数字」。
『現場』で格闘している人が書いた文章の中に出てくるから、この数字が意味を
持って迫ってくるのだ。
高木さんが、個人の、そしてACT−Kという組織の理想を説いているのではない。
精神障害者の方との、体制との 格闘を語っているのだ。だから、この本には、
かっこいいことばかりは 出てこない。 現実の現場の汗(冷や汗も含めて)の
匂いまで伝わってくる。
...
チカコさんが、ドライブに連れて行ってほしいとせがむ。なにか話したいことがあって
のことかな、と スタッフ(元・病院の医療スタッフ)が応じる。ドライブをしながら
話をしている中で、スタッフは思う。この人が退院して(在宅になれて)よかった、と。
チカコさんが言う、「あなたたちも、退院してよかったわね」。
浴場の湯船に釣り糸をたらしている人。
「なにか釣れますか?」とたずねる人。
「ここは浴槽ですよ。釣れるわけないでしょう」...ありそうな話として出てくる。
ありそう...でなくて、あるんですよ。
これが、統合失調症といわれている人たちなのです。
このスタッフの方(Oさん)、チカコさんから この言葉を聞いた時、
きっと、こころから 思ったのではないでしょうか...
『あ〜ぁ、この人が退院して、ほんとによかった』、と。
統合失調症の治療の現在が分かる
★★★★☆
ACT(Assertive Community Treatment)とは、長期入院を余儀なくされていた精神疾患をもつ人びとが、病院の外でうまく暮らし続けていけるよう、医療と福祉をあわせたチームで援助を行うやり方とのことで、その実践の第一人者である著者の本。全体的に文体が緩く、また例えば著者の経歴や智恵子抄の話題なども含まれており、とにかく読みやすい本です。
本書からは、以下のような部分に、長年精神科での実践を続けてきた筆者の、統合失調症という病をもつ患者への愛情が感じられます。
>こちら側に彼らが生きてゆくことを助けていきたいという気持ちさえあれば、
>彼らはその誠意が通じる人たちなのだ。
そして長年「収容主義」といわれてきたわが国でも、やっと地域生活を中心として治療を行ってゆく流れに変わりつつあり、筆者は、精神障害者の現実の姿が身近にみられるような支援によって、差別や偏見も和らいでゆくだろうと期待しています。
>精神障害者を強制的に収容するというやり方にすべての問題解決を頼って、
>私たちの社会から精神障害者とつきあってゆく知恵を奪ってしまった
>今の精神医療や福祉の制度こそが、責められるべきであろう。
ACTという実践は、すばらしい理念に根ざしていると思いますし、そのような試みが拡がればと願いますが、自分自身に、あるいは日本の社会にそれを受け入れる理念や土壌が育っているのだろうか?という疑問も湧きました。著者はかつて精神科病棟を「桃源郷のようだと感じた」と書いてあり、私自身もそのように思っていたこともありました。本当に必要な治療とは何なのか、必要な福祉とは何なのか、専門家でないわたしには分かりませんが、地域に病を負った人がいるということ、必要のない入院はされない、ということは、肯定しなくてはならない、と思いました。
わかりやすい文体
★★★★★
精神病の患者さんを在宅で診療しサポートする奮戦記。
全然、興味のない人にも、お勧めの1冊。よんで気持ちが明るくなる。
とてもわかりやすく、「人間らしく生きるとはなにか?」というのを考えながらあっという間に読めた
こういう 人と人のつながりは、今や精神病に限らず日本中で必要なんじゃないか。
静かな挑戦が始まっている
★★★★★
この本の中には、わたしたちが大切に見守りたい挑戦がある。
とても難しいことにあえてチャレンジしている人たちがいる。
それによって世間の中で生きることができる人たちがいる。
どうして在宅にこだわるのか。
患者からのSOSやトラブルが起これば、
訪問して対処しなければならないのに。
でもここには従来の精神医療に対する強烈なメッセージがある。
昨今、「患者さまのためのニーズに会わせた医療」などと
当たり障りのよいフレーズで提供されているお手軽な医療への
反抗なのではないか。
重篤な患者はこうした薄っぺらい医療では対応できない。
閉鎖病棟で一生管理され、生きる希望を失うかもしれない。
しかし、本の中でも語られているように、
本当の意味での患者本位とは、患者の自分の意思で生活する権利、
自由に行動する権利を保証した上で
365日24時間、患者を見守ることなのだ。