「結構真面目な読後感」
★★★★☆
マンガの揚げ足を取って後ろ暗い笑いを取る下品な本ではなく一般批評の俎上に載りにくいタイプのマンガ、ややもすれば消費され忘れ去られがちな作品に対する愛情と好奇心に満ちた論評集です。
全体の6割以上を同人誌やネット、トーク・イベント、雑誌ダ・ヴィンチ等で鋭いマンガ評を発表している新田五郎氏の80-90年代のメジャーマイナーな漫画に対する記事が占めています。個人的には前巻の「北斗の拳」同様、今回はJOJOシリーズから強く影響を受けた作品(三家本礼氏の『ゾンビ屋れい子』等)をパクリとして非難ずるのではなくフォロワーとして評価している内容が嬉しかったです。
他では今年ご自身が原作を手掛けた女ターザン漫画「魔境のシャナナ」が打ち切りになるという体験を踏まえた山本弘氏の海外同ジャンル漫画に対する尋常ではない執着に溢れた記事と、正確で真摯な考証が必ずしも漫画作品を面白くする訳ではないと言う唐沢俊一さんの海外漫画論評、そして漫画家本人が主役として登場する作品と写真漫画の特集等が眼を引きました。
トンデモ漫画と言っても一時期もてはやされたアウトサイダーアート的な作品は今回取り上げられておらず、全体的にクスリとしつつ頷きながら読む内容でしたが、その様な高揚感もあとがきで山本弘さんが触れたどんなトンデモ漫画よりも凄まじい東京都青少年保護条例改正案の内容には冷水を浴びせられた様に消えてしまうのは誠に困ったものです。