本書の特徴は，入門書でありながら，中級書以上でもちいられる数学（微積分やラグランジュ乗数法）が登場するところに尽きる．

この時点で，数学に苦手意識のある読者に敬遠されそうだが，相当な数学アレルギーの持ち主でないかぎり，本書を読むことは可能だと思う．というのも，記号・数式の意味や計算過程が非常に丁寧に解説されているからだ．巻末の数学付録や練習問題の親切な解説も読者の数学的理解に役立つ．これによって，読者は比較的高度な数学的手法をとりあえず使えるようになり，モデルを論理的に理解できるようになる．「数式を一切使わない」「中学数学レベル」などを謳い文句にする入門書が多いなか，本書のような教科書のもつ意義は大きいと思う．

ただ，コストパフォーマンスが悪い．塊??様のコンセプトをもつ荒井『ミクロ経済理論』が2冊買えてしまう（ただし，荒井本のほうが難易度は高め）．また，「はしがき」に「公務員試験に対応」とあるが，論点の網羅性からいっても数学レベルからいっても他の教科書のほうがよいだろう（ラグランジュ乗数法で試験問題を解く人はいるのだろうか？）．セールスのためか，多くの本がこのように主張するのだが…．