訳文の人名表記は、我々齢70に近い人間には馴染み深い表記を採用しており、近年のファンには間違いに思えるむきもあるだろう。初めて米国チームがやってきたときの神々しさが懐かしい。
ちなみに「男たちの大リーグ」もジョニー・ペスキーとボビー・ドアーが入れ替わるという初歩的誤訳があり、苦笑した記憶がある。
我々原文を読んでいる大リーグ通は、とかく厳しい書評を記してしまいがちだが、できれば邦題を変え、時間をかけた上での再版を望む。
「最後の四割打者」テッド・ウィリアムスと、ボストン・レッドソックス時代の同僚選手3人の親交を描く。不世出の大打者と、努力によって栄光の座を勝ち取った仲間の交流を、ウィリアムスの死を軸に、過去と現在をつなぎながら話は進められる。1940、50年代という、野球が真の意味で国民的娯楽であった時代の、選手たちの息遣いが感じられるのは、ハルバースタムの野球への愛情と、取材対象の内部に入り込む取材能力のなせる業だろう。
ただ、翻訳は詰めの甘さが散見される。人名の誤記、記録の間違いは訳者のアメリカ野球に対する理解の薄さを、そして、誤記誤植の多さは編集者の編集能力の水準を示しており、完成度は決して高いとはいえない。「2004年大リーグ日本開幕シリーズ記念」とあるが、もし3月末日の出版を目指しての「急ぎの仕事」であるなら、残念としか言いようがない。
自己の作品に対して徹底した「品質管理」を行うハルバースタム。その彼の翻訳だけに、より繊細な注意が払われていれば、原著の面白さをより的確に伝えられただろう。
なお、原題は"The Team mate"であり、邦題は編集部の発案により付されたものである。