奥の深い物語
★★★★★
どちらかというと、子どもよりは大人向けかもしれません。動物を乱獲して毛皮を身につけることへの疑問、及び警鐘を鳴らす物語。でも、小さい頃からこういうものを読み聞かせられてお子さんが増えれば、少しずつでも問題の解決につながっていくかなとも思います。私は関東で生まれ育ったので北国の冬の厳しさはわかりませんが、少なくとも東京の人間には、毛皮は必要ないものね。
宮沢賢治独特のリズム感は、残念ながら有名な物語ほど感じられませんが、雰囲気はちゃんと存在します。今では使われなくなった言葉には注釈がついていて、若いお母さんでもお子さんに説明できると思います。
一番のお勧めは、絵が素敵なこと。やわらかくて、でも少し怖い感じも出ていて、賢治の作品にとても合っています。白くまさんの怒りの表情に、思わず見入ってしまいました。もっと知られていい作品だと思います。
賢治の世界を贅沢な絵とともに味わう
★★★★★
氷河ねずみって実在の動物? おそらく賢治の造語だとおもいます。
実在するにせよ しないにせよ、ネズミで毛皮のコートをつくるとなると、
かなりの数が必要になることはまちがいありません。
本書に登場する男の話によれば一着につき450匹も使ったとのことです!
舞台の中心はイーハトーブから北極のほうへ向かう列車の中。
おもいおもいに防寒対策をほどこした乗客たちは、みな一癖ありそうですが、
中でも赤ら顔の太った紳士はかなりクセ者。
彼が自慢げに自分の着込んだ服について語り始めるとともに
列車の中が不穏な空気につつまれていくので、こりゃあとんでもない
ことが起こるだろうなと、思わず引き込まれてしまいました。
原作は有名なようですが、もしこれから読まれようとしている方は
本書をぜひ手に取ってみてください。なんといっても挿絵がいいです。
暖かさや寒さが体の芯まで伝わってくるかのような情感にあふれ、
まるで自分も列車で幻想を見ているかのような気持ちにひたれます。
C.V.オールズバーグ的な世界が好きな方にもおすすめ。