今更といわないで 一つの試み
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戦争文学など 今更といわれそう。 そう感じている語り手たちが これだけ熱くなって語ることに引き込まれた。そして、 あまり知られていない鶴彬の 私家版を制作した経緯、ガリ版刷りで 作品集を作っていた人に 復刻の許しを得るための アプローチは ノンフィクション作家 澤地久枝氏のしつこいまでの食い下がりというのか 覚悟に惹かれる。 軍備に国費を使って 国民が安心できる豊かな生活を約束しますとうそぶく政府の政策の嘘を淡々とあばく、年下の佐高氏は 戦争からはさらに遠い世代の代表として 澤地氏の昭和へのこだわり、戦争をなんとしても 繰り返させまいと必死の模索を続ける作家業について、戦争体験者である戦争文学作者たちのことを上手に聞き出してくれている。 戦争のことを読むのはもうへきえきしていた自分だったが 二人の真摯な思いに感染し、戦争文学なんかと思う人ほど読んでほしい一冊。
永遠に語り継ぎたい戦争文学
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なぜ今「戦争文学」か、澤地久枝は冒頭こう応える。「戦争体験と言えるほどのものを持たない」世代の少なくなっていく時、「戦争についての文学者の証言。その作品を読むことから、若い人たちに戦争を直視し考える」ことを求めているのである。
本書は対談の形式で、問題点を重層的に解きほぐし、読者に親しみ易い展開に進行させている。戦争文学に「何を学ぶべきか」昭和20年1月生まれの佐高信は応える。「私には七ヵ月の戦争体験しかない。そこで、実際の戦争を生きた澤地久枝さんに、とりわけ若者に戦争を伝える文学作品を」紹介してもらうというのが、本書の趣旨である。
五味川純平の『人間の條件』は軍隊内部のリアルな描写、人間を極限までまるごと描いている。原民喜の『夏の花』ほかヒロシマを描いた詩文集。吉村昭の『戦艦武蔵』など数え切れない。