政治的任用の重要な研究
★★★★★
この本はアメリカ大統領が各省庁の一定の職員を政治任命することについて、その理由と政治任命が行われることの弊害について書かれた本です。
論証が非常に丁寧で、データの使い方も丁寧で参考になり、論文を書くという点からも良書といえます。
この本、言いたいことを要約すると、政治任用を行うと、行政サービスの質が低下し、最終的に米国国民が被害を受けるということです。
その理由として、大まかに言うと、まず、その官庁に配置される政治任用者がその分野について素人であり、能力が低いことが多いこと、そして、上級職が政治任用されることにより、その組織の職業公務員に高給及び権限の獲得という動機が失われることとなり、官僚組織自体の能力も低下するということです。
この点、著者は、一番分かりやすい問題として、ハリケーンカトリーナがアメリカに被害を残したときに、連邦危機管理庁の無策、無能力ぶりから、いかに政治任用の上級職に専門性がなく、かつ、経験が欠如し、対応が遅れたかということを例としてあげています。
しかし、こうした問題が生じたとしても、大統領には、政治任用を行うだけの動機があることを説明していきます。
その動機とは、大統領が官僚組織に自分の命令を浸透させるためであること、そして、もう一つが、大統領選での自分の支持者に対して報いるために官界の職を斡旋することがあげられています。
要するに、行政を動かすためと、政治的見返りを行うために大統領は政治的任命を行うということです。
この点、専門的な知識や経験がある人物をその官庁に政治任命できればいいのですが、全く反対で能力のない者に限って、任用されたがる傾向があることも述べています。
日本においても、政治的任用についての話題が高まりつつありますが、これからの政治や行政を考える上で本書は、重要な論文となることでしょう。
その他にも、政治的任用についてのいろいろな研究が載っており非常に有意義な本であると思います。
政治家がどの程度中央政府に人を送るべきかを考える際に有効
★★★★★
■訳が優れている
学術系の書籍で訳書といえば、直訳で用語が統一されておらず、何度読んでもわからないような本が多いのですが、この本は一度読めばわかる優れた訳をしています。
■これからの日本の官僚機構を議論するのに役立つ
内容は政治任用(大統領が、局長などの人事を直接指示すること)についてです。デイヴィッド・E. ルイス は基本的にこの制度のせいで行政の効率性、サービスのレベルが損なわれていると一貫して説いています。
現在、日本では、中央省庁の官僚制度についての改革議論がさかんになっています。この書籍は、そうした議論の中に非常に参考になる米国の歴史、データ、現実の課題が詳しく記載されているので、参考になります。
この本を読むまでは、アメリカの大統領が人事権をもつことが優れた制度のように感じていたのですが、実際はそうではないことがわかり、衝撃的でした。