普通の公立中学校の顔
★★★★☆
よのなか科、ドテラ、夜スペ、地域本部とこれまでの教育業界とは一風異なった取り組みを積極的に展開し、マスコミなどで広く知られることとなった和田中。ある意味日本で最も有名な公立中学校かもしれない。本書では藤原和博校長を中心とした和田中学校の学校改革について学者の視点から考察を行ったものである。
学者の視点からと言う意味で興味深いのは和田中の「普通の公立中学校としての顔」を強く意識して和田中の変化を捉えようとしたところである。特殊な取り組みばかりが注目されるが、学校生活の殆どの場面は従来の普通の公立中学校と何ら変わることがないのは当たり前であるが、忘れかけてしまう視点である。この普通の中学校としての側面から見て初めて藤原校長の改革の是非が明らかになるような気がする。世に民間人校長がもてはやされるが、成功例はごく一部というのが実情である。普通の公立学校としての側面を活用することこそが成功につながるのであろうと思う。
本書でもふれられているが、和田中の学校改革は藤原校長の有名性に依拠する部分が多いのも事実である。どこが全国の学校一般にも応用できるのか、どこが和田中(もしくは藤原校長)以外には適用不可能なのか。普通の公立中学校という視点は和田中の学校改革における普遍性を考察する上では不可欠のものである。
藤原氏は大阪府の教育アドバイザーとなった。大阪府の教育改革にどれほど寄与できるか今後に期待したい。一個の学校にとどまらず、大阪府という巨大自治体における改革を成功させることができれば日本の教育は大きく変化するだろう。
初期藤原メソッドの検証
★★★☆☆
本書は藤原和博氏が民間人校長として和田中に赴任した2003年度の入学生徒に焦点を当て、エスノグラフィーと学力・質問紙調査による「和田中」の実態を検証したものである。
いわばこの成果は変革初期の和田中学校における「よのなか科」や土曜寺子屋などの取り組みを踏まえたもので、2003年と2005年の学力調査の結果を見ると、比較対象とされたA中に比べ、成績分布にムラがあり、平均点の下がり具合も和田中の方が大きいように見える(実際に統計的にも有意であるという)。しかし、藤原校長自身が指摘するように(92頁)、初年度においては生活貧困層も多く抱えており、そのような文化階層を考慮した上で(53-54頁)比較した場合、この差はなくなっている。また、学習意欲・態度に関する項については行動面での改善はないものの、特に不利層においては意欲面での改善が見られたという。
この結果をどう見るかについては私自身も評価しがたい。ただ、はっきりといえることはここでみる和田中の実態と現在の和田中の実態は多くの点で乖離しているということである。本書に示されているように、現在の和田中の生徒数は2003年度の2倍近くの人数となっている状況である。そして、学力テストの成績に関していえば、とりわけ英語については区内でダントツの1位となっている。
ここで一つ問わねばならないのが、本当に英語コースなどを取り入れた「後期藤原メソッド」の成果としてこのような好成績が生まれたのかという点である。学校希望制度を取り入れている杉並区においては藤原校長のメディア露出の影響も受けながら2003年度入学時の文化階層とは大きく異なった(むしろかなり裕福な)層の生徒が入学してきている可能性が高い。その土台があるからこその好成績ではないのかという仮説は否定できないし、このためには別の検証が必要となる。
また、今年大きく話題になった「夜スペシャル」に関する議論、公教育における私企業の参入についての有効な見解というのは調査対象から外れているということで本書で言及されてはいない。主題とは関係ないといえども、私自身も関心があったことだったので、残念な感じはあった。