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リヒャルトシュトラウス 「自画像」としてのオペラ《無口な女》の成立史と音楽

価格: ¥4,410
カテゴリ: 単行本
ブランド: アルテスパブリッシング
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日本のクラシック愛好家の間にはR・シュトラウスが好きとはいえない雰囲気がある。何分、暗く深刻な曲が最上であり、精神性豊かな演奏がもてはやされる中、R・シュトラウスでは、クラシック音楽の何たるかを知らない輩と非難されることは明白だからである。
また、誇大妄想的楽曲や凡庸な風貌も思想の低さを物語るようで、シュトラウスの生涯に関心を寄せる向きも少なかったように思う。
この著書はそのようなシュトラウス像に一石を投じるものであろう。博士課程学位論文が元になっているそうだが、平明な文章で、堅苦しいところはない。楽譜が読めない私には曲の音楽的構成を詳細に分析した章は理解しにくいが、この辺りは論文を審査する教授連にお任せすればいいのだろう。
第2章、3章で論述されるナチス政府との確執は興味深い。シュトラウスはナチス政権発足当初、政府から自分の才能を格別に評価されていると確信し、組し易い相手と考えていたようである。しかし、ナチス政権は軍事に関しては素人同然であったが、政治・外交・統治能力には長けているのである。
シュトラウスは、ゲッベルス大臣が率いる国民啓蒙宣伝省の下部組織、音楽局の総裁就任を要請されると、ひとつ返事で受諾した。これにより、ナチの協力者として戦後まで非難されることになるのだが、シュトラウスの真の意図は音楽文化の向上と作曲家の著作権擁護にあったのである。幾多の困難を乗り越えて完成された、ユダヤ人シュテファン・ツヴァイクの脚本によるオペラ「無口な女」は初演後間もなく上演禁止となり、音楽局総裁の地位も追われることになる。ナチス政府に翻弄され続けながら、生活の糧を得るためにシュトラウスは指揮活動を続けざるをえず、また、ナチス政府の文化政策上、利用価値のある場には出席させられるのである。
シュトラウスの後半生の望みは聴衆が心から楽しめるオペラを作ることであった。しかし、なりふり構わぬ総力戦に突き進む祖国はそれを許さず、また、人々の関心もオペラから去りつつあったのである。
R・シュトラウスとは生まれるのが50年遅かった作曲家ではなかったか。