単に笑わせるだけでなく、おもわず、ホロッとさせる
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TBSラジオに「小沢昭一の小沢昭一的こころ」という、もう30年以上も続いている長寿番組があります。
「小沢昭一的」という芸風を確立した著者に、ある日、
寄席へ出てみませんか。
それも、ちょこっとゲスト出演なんていうのではなく、10日間
みっちり出演してみませんか。
というお誘いがありました。
しかも、出演打診があった寄席は新宿の末広亭。
著者は、子どものころに末広会という後援会に入っており、楽屋へもぐりこんだり、表で客寄せしたりと、いろいろ手伝った思い出がありました。
せっかくのお誘いですから、……と出演した高座の様子を実況中継したのが本書です。
いやぁ、もう、小沢昭一ファンには、たまらない一冊です。
まず、本の作り方に凝っています。
字体が普通の本と違う。通常の本を行書とすれば、草書のおもむきを醸し出しています。「と」の縦棒などはグサッとつきぬけていて、老眼ぎみの私が油断していると、「も」に見えないこともありません。
欄外に章の見出しを書いてある部分(柱)が縦書きで、ページ番号(ノンブル)は漢数字。もう、徹底的に舶来ものの雰囲気を排除しています。
なんとも、小沢昭一さんの語り口、寄席のふんいきを伝えようという、心憎い配慮じゃありませんか。
下座の三味線は、ラジオの「小沢昭一的こころ」のテーマ曲。今は亡き山本直純さんが作曲したものです。
客席から「待ってました!」の声があがると、
「待っててくださったほどのお話もできないんですけど。(爆笑)」
と、小沢昭一節がはじまりましたよ。
小沢さんの話は、単に笑わせるだけではありません。おもわず、ホロッとしてしまうところが持ち味のひとつですよ。
私も、本書を読んで心の中で3度泣きました。
いやぁ、いい本を読みました。
誰かと、この満足感を分かち合いたい気持ちになりましたよ。