日々の食卓や庭の園芸に関連の深い作物の品種が、多くの人々の長い間の努力で改良されてきたことは、新聞や雑誌などでときどき見聞きしていたが、この本ではそれが品種改良の技術別に年を追って分かりやすく描かれている。品種改良が科学的技術になったのはメンデルの法則が再発見された１９００年からでまだ１００年ちょっとしかたっていないことは意外だった。司祭だったメンデルがえんどうで遺伝の実験をやったのが羊の改良と関係があったという話は初耳。それにしても品種改良の分野にはたくさんの逸話があって面白い。世界中から危険を犯して植物を集めて解析してソ連の遺伝資源を豊かにした業績を残しながら官憲に捕われ獄死したバビロフ、ショウジョウバエにＸ線を照射してはじめて人為突然変異をおこさせたマラー、遺伝子組換え技術の発展の歴史など、遺伝の教科書にはみかけない興味深い話がつぎつぎと現われ、いつのまにか読み終えた。巻末に年表がついているのも便利だと思う。