これはギリシア悲劇ではない
★☆☆☆☆
日本の劇団が本場ギリシアで『オイディプース王』を公演したというもの。本来のギリシア劇にはない女を使ったり、雅楽を使ったり、外国人からすれば興味深く見られるものかもしれないが、ギリシア悲劇の上演を見たい人には決して勧められない。何と言っても主役が迫力不足だ。曖昧な発声と早口で話すために聞きにくく、にやけ気味の表情には王の威厳はまったくない。コロスという合唱舞踊団の扱いも中途半端だ。台詞に関して言えば、英訳からの重訳かと思えてしまう。日本の劇団の記念的な公演の記録、あるいは好みの役者を見るのであればよいが、決してこれを見てギリシア悲劇とはこんなものだと思わないでもらいたい。
迫真のギリシャ悲劇
★★★★★
ギリシャ悲劇をアテネで演じるという快挙を成し遂げた蜷川「オイディプス」。一世一代のはまり役ともいえる野村万斎らの迫真の演技で観るものを圧倒する内容となっている。東儀秀樹の音楽も異様にマッチして厳粛さと悲劇性を醸し出している。こんな凄いものを、2500年も昔に古代ギリシャが作っていたという驚異と、それを現代から観てもちっとも色あせないことの真実がはっきりとわかる演劇となっている。
神々と真実、そして、神々の予言と正しさに抗うことの出来ない人間の運命。この悲劇は、では一体誰が悪いのだ?という問いかけに神々は答えていない。その中でもがく、人間の悲劇を痛々しくも圧倒的な迫力で表現した本作は日本演劇の快挙といえる。ただ一つ、悲しむべきことは、これはDVDであり、本物の公演を私は見逃してしまった点である。
演劇の原初を思わせるような舞台
★★★★★
アテネでの公演当時、縁あって現地で舞台を拝見した。
蜷川&野村萬斎両氏の「オイディプス王」は東京でも以前観ていたが、
内容は同じでもそれとは全く別物と思ってほしい。
やはりそれは場所と時間がもたらす力、まさに「舞台」が異なるからこそ成せるわざだ。
想像してみていただきたい。麻美れい氏演じるイオカステが、オリーブの枝を掲げ、「リュケイオス、アポロンよ!」と声高らかに呼ばうその手の先には、
まさにオリンポスの神々が座す古代神殿があるのだ。
そして、そんなプリミティブな石の舞台の上で圧倒的な存在感を放つ野村萬斎氏は、破滅へと疾走する若き王のドラマを見事に演じきっていると思う。
演劇はかつて神々への供物であったという、そんな歴史をふっと思い起こさせる荘厳な舞台がここにある。
月明かりの下で
★★★★☆
劇場で演じられるのとはまた違った雰囲気がある。
生の臨場感は伝わりにくいかもしれないが、野外で行われているものをカメラ撮影しているので、
カメラアングル、録音された音の感じが新しい色を添えている。
自然の静寂の中に人工的な静寂を感じる。
まるで一瞬にして終わる夢のよう。
舞台が素晴らしい
★★★★★
野村萬斎さんの「オイディプス王」は以前にもDVDで発売されていますが、これは初演のときとはまた別物と思って頂きたいです。
萬斎さんも麻実さんも吉田さんもより激しく、より哀しく、そして何よりもコロスの方々が素晴らしいと思いました。国を思う嘆き、オイディプス王やイオカステの運命を哀れみ悲しむ様を全身で表しています。
また、シアターコクーンの空間の中での公演も好きでしたが、アテネの野外劇場での公演はとても幻想的で劇場の雰囲気に溶け込んでいて、お話を知らない方でもそれだけで楽しめる作品だと思います。