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迷路のなかで (講談社文芸文庫)

価格: ¥987
カテゴリ: 文庫
ブランド: 講談社
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甘美なる《迷宮世界》。 ★★★★★
知人の紹介で読んでみたのだが、これは確かに傑作である。タイトル通り、作品全体が、《純粋に言語だけで迷宮を造り上げたら、いったい、どうなるのか?》という、一種の実験小説として成立している。そして、この実験は、見事に成功している。作品全体に溢れる、《冥界の安らぎ》とでも言いたくなるような、静謐な美しさが、とても魅惑的な世界を造り上げている。この《迷宮世界》には、何らかの意味があるのか?それとも、全然、意味がないのか?それは、私には分からない。ただ、文学というものが、《言語によって、美を創造する》ための装置であるとするなら、この作品は、明らかに傑作だと言える。バラードやカフカが好きな人には、必読の作品だと思います。
結晶のような美しさ ★★★★★
アンドレ・ブルトンは『シュルレアリスム宣言』のなかでドストエフスキー『罪と罰』から以下の一文を引用し、「あれの虚しさに比べられるものはなにひとつない。カタログ図版の積み重ねにすぎないのだ」と批判しています(岩波文庫p. 14-15)。

青年が通された小部屋は、黄いろい壁紙がはりめぐらされていた。窓辺にはゼラニウムの鉢がいくつかと、モスリンのカーテンがあった。(…)そりかえった背もたせのある長椅子がひとつ、その長椅子とむかいあう楕円形のテーブルがひとつ、窓と窓の間の壁を背にした化粧台と鏡がひとつずつ、他の壁にそって椅子がいくつか(…)、これが調度類のすべてであった。

やや表層的で乱暴な比較になりますが、こうした「カタログ図版」を徹底反復させるとロブ=グリエの叙述になるといえるかもしれません。ここから驚嘆すべき文学が生まれ得るとはシュルレアリスムの旗手も思いもよらなかったでしょう。
あてのない兵士の彷徨、繰り返される街並み、キャッフェ、病院の描写。漸進していく叙述はしかしながら一度出てきた言葉や情景や仕草の組み合わせから成り、その機械的操作はホメーロスの叙事詩に見られる古拙な描写をふと思わせたりもする。ヘレニズム・ローマ時代を通じて多くの詩人たちが才能と努力を傾けてこうした単調さを超克しそれが西洋文学の礎になっている事を考えれば、本作品の持つ新鮮さ美しさはある意味文学の伝統の虚を突くものといえるかもしれません。
叙述の主体である「私」やその対象である「兵士」について、伝統的な小説における「話者」や「報告」といった形に無理に解釈する必要はないと思います。無時間的な叙述はやがて絵画「ライヘンフェルスの敗戦」の細密な描写と重なっていきますが、こうした展開と「私」は安易に関係づけられないからです。あまり先入観を持たずに作品に身を任せて漂ってみるのが、このような文学を楽しむコツだと思います。
ヌーヴォー・ロマンは読んでみないと分からない ★★★☆☆
本作はヌーヴォー・ロマンである。これは1950年代期にフランスで起こった小説革新運動で、伝統的な近代小説の手法(現実描写、心理描写、登場人物の造形、時間の経過など)を拒否し「小説の小説」を追求したものである。ロブ=グリエ自身「我々の小説の目標は登場人物を生かすことにあるのもでなければ、物語を語ることにあるのでもない。」と発言している。ストーリー性を潜在的に求めている読者にとっては面食らう他ないだろう。私が「主人公のある兵士が…」などと、あらすじを説明しても意味がないのである。ヌーヴォー・ロマンの旗手は、言葉が成立させる「テクスト」の表現の可能性を徹底的に追求することを主目標にしている。これはかなりの読書経験のない人でないと、その「革新性」が全く分からないことを意味する。ヌーヴォー・ロマンに興味のある人は、まず読んでみることをお勧めする。その答えは作品において表現されている「テクスト」自体に見出せるだろう…。
反復と幻覚 ★★★★★
情景を幾何学模様のように描き出し、そのシーンの類似が反復される不思議な叙述。
語られない名前、地名。時間・場所を特定するような固有名詞も出てこない。
細密で単調な描写と連動していく幻覚のようなイメージと不特定性が、
不安定性と基調とする独自な旋律を奏でているユニークな小説。

確かに難解さ、読みづらさはあります。ストーリーらしい展開はごく一部です。
でも小説が好きな方には、この文学的「迷路」に入って独創(独奏)的な世界に浸ってみるのも面白いと思いますよ。