壮絶な録音過程を微塵も感じさせない、ピースフルな音楽
★★★★★
アリ・ファルカ・トゥーレはアフリカはマリのギタリスト。「砂漠のブルースマン」の異名をとりその演奏は多分にブルースの影響を
受け、過去にはライ・クーダー等との共演作もある。
トゥマニ・ジャバテは、同じくマリ出身のコラ奏者。コラという楽器はアフリカに古くから伝わる弦楽器で本体に張られた21本の弦
をつま弾くように音を出す。昔はアフリカの伝統継承者「グリオ」だけが扱う事を許された楽器であり、トゥマニもその一人。
アリは惜しくも2006年に病で他界しているが、本作はその死の一年前にロンドンのスタジオにて短期間に録音されたものであり、
彼の実質的な遺作である。ブックレットには共演者のトゥマニによる録音風景の様子が書かれているが、アリは心臓の痛みを患
っており、演奏を何度も中断しながら録音された壮絶な制作過程だった様だが、奏でられる音からはそんな死の面影等感じさせ
ない、極めて美しく穏やかな世界で満ちている。
まずトゥマニの奏でるコラの美しい音色が良い。ハープの原型となった楽器と言われるだけあり、生まれ出る繊細で細やかな旋律
は心が浄化れるようだ。また、それに呼応するアリの淡々としながらも味のあるギター演奏も流石の貫禄。本作中では2曲アリの
歌声も披露され、特に「SABU YERKOY」での伝唱の様に淡々とした彼の歌は実に心癒される。また録音に定評のあるノンサッ
チ・レーベルらしく、それらの音を鮮度の高い形でCDに封じ込めており、スタジオの感動がそのまま聴き手に伝わってくる様だ。
収録されたインスト中心の11曲。全編を覆う何かを達観したかのような平安な空気は何よりも代え難く、録音当時、死を少なから
ず予感していただろうアリの高い精神性がそのまま音楽に反映されたかのような、素晴らしい作品だ。