ちょっと辛目ですみません
★★★☆☆
迫力といい 描写といい 素晴らしいけど ふに落ちない…と思っていた箇所が、何度か読み返してみてやっと解った 草むらを駆けて行くビビを「バッタのよう」 「まるでおむつをした赤ん坊たちの電車ごっこ」 「月がかげる」 これらの喩えや現象を「不思議な声」を聞くまで光さえも見たことがない筈のホタルが、余りにも知りすぎているため、それまで彼がいた「闇の深さ」が上なぞりになってしまってると感じたせいだ。生まれつき視覚のない人の第一人称で、たった7時間の視覚を得た時間を描写するにはこれが限界だったのだろうが、自分だったらと思うと母がかけているダイヤルの数字さえ初めて見る物、間違ってると気付くホタルに違和感を拭えない…最低限、ネコのミミやお母さん、帽子やバスのことは、感触や音で知ってたとしても。 本当に主人公の周囲に「闇」の存在を感じる描写は「はなれ瞽女おりん」等の方が印象的かな… 限られた時間にあらゆる現象が飛び交うので、まぁ細部はいいか、と思える良さはあるけれど。短い時間内で、この世のあらゆる醜さを見てしまった中 宝物のように美しいビビに出会えたホタルは幸せだったに違いないとそれは思った。
ビビを見たい!
★★★★★
アラフォーです。
子供の頃からとにかく本が好きで、昔も今も図書館に入り浸っています。
今まで、何百冊本を読んだことでしょう。
でも30年以上たっても心に残っている本、それがこれです。
最後の「ぼくが、ぼくだけがビビを見たんだ。」
(一語一語は違うかもしれませんが。)
挿絵効果もあると思いますが、この一文は幼い心に多少なりとも
インパクトを与えました。
今こそ子供大人を問わずに読んで欲しい本です。
再販されているのを知りませんでした。
「メキメキえんぴつ」とともに、早速購読しなければ。
「過去からのすばらしい贈り物」
★★★★★
三月も終わりのある日のこと、生まれつき目が見えないホタルに、突然「七時間だけ目が見えるようにしてやろう」と言う声が聞こえた。ホタルは、目が見えたらいいななんて思ったことがない。「目が見えなくてかわいそう」と人はよく言うけれど、ホタルは目が見えないのを少しもかなしんでなんかいない。
真っ黒なページに白抜きの文字で始まる不思議な絵本。
ホタルの目が痛み始め、目が見えるようになる瞬間、「ホタルのまぶたに、たくさんの、すごく小さい、あやしい虫が羽音もたてずにたかる」ーそれが光だった。光というものをこんな風に描写できるなんて! すばらしい表現にがーんと衝撃を食らってしまった。
生まれたばかりの赤ん坊のように光を浴びたホタルであったが、気がついてみると、ホタルの他の人々は皆、目が見えなくなっていた。ホタルの目が見えるようになったと同時に何か非常事態が発生しているようだ。敵が訪れたとアナウンサーがテレビで告げている。
限られた時間に、もっともっと見たいものがあるだろうに、目が見える唯一の存在として、何ものか分からない敵から人々を守るために戦おうとするホタル。ホタルにとっての限られた時間が非常事態とは、何と残酷なことだろう。ホタルは、パニックに陥っている人々とお母さんを労わりながら、バスに乗り、特急コガラシ号に乗る。そこで、美しい緑色の少女ビビに出会う。残された時を惜しむように、ホタルはビビを見つめた。
23歳になる私の娘は点頭てんかんにという重い病を抱えて生まれてきた。知的な障害を抱えて生きている。『ビビを見た!』を読んで、父親である主人が「娘にも七時間でいいから、健常児としての時間を過ごさせてやりたい」と言った。確かに、娘が、もし、健常児だったら…という思いを母親の私も抱かないわけではない。
娘は、周囲の人からの支えなしでは生きてゆけない。日常生活を送る中では、困った存在となることもしばしばだが、明るく前向きに生きている。親ばかだろうが、たとえようもないくらい純粋で可愛い。私は、娘が知的な障害を抱えているがゆえに、美しい心を持ち続けているのかもしれないと思う。
ホタルは、目が見えなかっただけに本当に美しい物を捉えることができたのではないだろうか。ホタルとビビと謎の敵ワカオが織り成す悲しく、はかなく、残酷な物語を限りなく美しいと思えるのは、娘のお陰かもしれない。
『ビビを見た!』は、74年理論社刊の再刊である。解説を書いているよしもとばななさんもその一人であるが、この絵本を愛し続けてきた読者たちの熱意によって、復刊された。よしもとばななさんは、この復刊を「過去からのすばらしい贈り物」であると述べている。『ビビを見た!』を29年間も大事に読み返してきたよしもとばななさんの解説の言葉が、初夏の緑のようにきらめいている。そして、作者である大海赫さんの「あとがき」が燻し銀のような輝きを放っている。
胎児の絵に始まり、菩薩像の絵に終わる一冊の絵本、ビビ以外の人々は、亡霊のように不気味に描かれている。黒と白と赤と緑の色彩の世界が神秘的だ。本当に見るとは、また、本当に美しいものは何かを考えさせらた。また、自分の命が限られた命であることをぞくっとする形で認識させられた。解説と「あとがき」まで、たっぷり味わうことが出来た。
「過去からのすばらしい贈り物」を手にすることができて、思いがけない喜びを味わっている。『ビビを見た!』を愛し続けて、復刊ドットコムに投票して下さった皆さんの熱意と誠意を持って復刊に携わって下さったスタッフの皆さんに心からお礼を申し上げたい。そして、「過去からのすばらしい贈り物」をたくさんの方と共有したい。大人のあなたにも、まだ、子どもである君たちにも、お勧めの一冊。
悪夢のように混沌とした、胸が締め付けられるシチュエーションが続く
★★★★☆
著者の『ドコカの国にようこそ!』を偶然手に取り
それがかなりの名/迷作であったため
評判の高い本作も手に取った。
一読してやや混沌としている印象。
なぜホタルは期限付き目が見えるようになったのか。
ビビとは、敵の巨人とは一体ナニモノなのか。
人々の目が見えなくなったのに、ニュースは誰が流しているのか。
悪夢のように混沌とした、胸が締め付けられる
シチュエーションが続く。
そして童話とは思えぬラストの後、奇妙に流れる安堵感。
エンタテイメントに対する純文学のように、
魅惑的な毒薬が、真実をよりクリアーに映す鏡であるという現実を
読解力のある読者は強く認識するだろう。
遠い記憶。
★★★★★
大海先生の本は「ドコカの国にようこそ!」しか知らないつもりでいました。しかし今作を買って開いて・・・ようやく蘇る記憶。小学校の図書室に通った頃、古めかしい棚の片隅、いつも背表紙で「ビビを見た!」というやや奇天裂なタイトルを目の端で追っていた。
そして一回、開いて読んだのですが・・たぶん終わりの黒に塗られたページ絵に少し驚いて、当時のわたしは記憶から消していた・・いや、早くも小さなコンプレックスにとらわれた自分はそれで胸がいっぱいだったんだなあ。
いまだに人の中に居るのが苦手で、「そうは見えないね」なんて言われつつもなにかカタマリを抱えて生きている。そんな自分を濯いでくれる本ですね。
きれいなきれいなモノだけでは・・・・癒されませんね。