廃墟の輝きも、失われる町へのノスタルジーも、
そこに生きる人々のつつましやかな生活の美しさも、
本作は表現していない。
崩れゆく町で、薬漬けで救いのない人々を、
ただ、やさしい光が包むだけである。
何の救済もない場所に、ただ光だけが、
唯一美しく神の抱擁としてフィルムに残る。
石川淳の小説「焼跡のイエス」を思い出した。
街は壊されつつある中で、ヴァンダは部屋で延々とドラッグを吸い続ける。キスもない、セックスもなし。ただ、これだけの話なのに、トレイラーを見ただけで涙が流れた。そんなことは初めてだ。
ポルトガルのリスボンにある見捨てられた街で、生活する人々がいる。かと言って貧困を訴える映画でもない。むしろ、その路地に誘惑されるのである。なぜか。答えを得るには映画館で、この映画を見なければならない。
蓮実氏によれば、映画の21世紀はペドロ・コスタの『ヴァンダの部屋』と共に始まるらしい。嘘だと思った。が、しかしその通りだった。