濃厚なチーズのような漆黒のTROPICS
★★★★★
あの分厚い名作「ハワイ」より140P少ない292Pにして若干こちらの方が価格が高いのは、印刷のせいか?
濃厚なチーズのようにまったりとした漆黒の暗部と精細なグレートーンが際立つ仕上がりの印刷。
「凶区エロティカ」も似たような印刷だったが、あちらはメタリックな光沢紙であった。
この「TROPICS」はマットな紙質なので印象がまた大いに異なる。
犬や巨大くちびる、自身の影など森山アイコンもちりばめつつ、東南アジアの雑多な風景・
人・モノ・コトたちが、吸い込まれるような漆黒のインク(強烈な異臭を放っている)の中に
定着、結晶している。
大型写真集の「ハワイ」や「ブエノスアイレス」を見て、森山大道の撮るタイの風景なども見て
みたいと勝手に思っていたが、まさか過去に東南アジアで撮影を敢行済みで、
作品集が出るとは嬉しくも恐れいった。
60年代よりストリートスナップ写真を撮り続け、今なお新作や未発表作品が刊行され続けている
写真家森山大道は特異で稀だ。彼の撮影するスピードと量に写真集は常に追いつけていないが、
それはそれで楽しみが尽きないという事でもある。