吸血鬼ハンターDシリーズ ひさびさの傑作です
★★★★☆
人間であるのに、人間以上の力や技術、超能力をもった吸血鬼ハンターたち。彼らの平均生存期間は二年余り。それくらい割にあわない、分が悪い勝負ですが、それでも彼らは金のため、信念のため戦います。その吸血鬼ハンターの中でも一番凄腕の吸血鬼ハンターと知られるのが本編の主人公、Dです。
絶世の美貌を持つ彼は、吸血鬼と人間のハーフ(ヴァンピール)であり、今迄も数多くの吸血鬼を滅ぼしてきた伝説の吸血鬼ハンターです。彼は、なみの貴族など歯牙にもかけぬ力と技術をもちます。自分の事はもちろんあまり喋らず、彼の代わりに喋るのは左手に寄生した人面疽です。
辺境をさまよい、行く先々で貴族たる吸血鬼を倒し続ける吸血鬼ハンターD。
このシリーズはこの基本設定を変えず、作品ごとに主人公以外の登場人物がすべて一巻読み切りで出てこないというスタンスをずーっと続けています。それなのに、本当に息が長く、この19巻目で、かれこれ二十年以上は続いています。なにせ第一作はアサヒソノラマでしたが、そのソノラマ文庫も廃刊となり、今回は朝日文庫のソノラマレーペルという所から出ているといえばその長さがわかるでしょうか。
さて。
今回のDも、その基本路線はかわらですが、著者の菊地秀行さんの中で何かが変わったのか、今迄以上に密度の濃い、アイデアを出し惜しみせず盛り込んだ作品となっています。ここしばらくのDの中では、一番いい出来になっています。むしろ、アイデアを盛り込みすぎて、伏線が伏線として残ったままだったり、かなり戦闘シーンを削ったあとも見えて、長いのを短く削り込んだ感じでよい出来になっています。クライマックスにむけて盛り上がっていく通常のスタイルとは違う、菊地秀行氏独特の見せ場がずっと横滑りして繋がっていくスタイルは変わりませんが、そのそれぞれのシーンや戦闘のアイデアが今回は盛りだくさんでした。
また今回は主人公と対決する大ボスの貴族たちのキャラクター造詣が今迄になく踏み込んだもので、単なるやられ役ではなく、平板な感情の起伏に乏しい貴族ではなく、非常に感情移入できるキャラクターになっており、そこも読みどころの一つです。人間と貴族の間をつなぐものの研究に自身を捧げつつも、その過程での人間の犠牲者のために苦悩し精神をも病んでいくドラゴ大公、貴族でありながらも人の血を吸わないジュヌヴィエーヴ伯爵夫人。そして、本来の敵役であったはずなのに影のうすいゼノ・ギリアン。彼らへの書き込みなどが今回はいつも以上に冒険エンタティナメントとしての完成度を高めています。
ソノラマ文庫でデビューした菊地秀行の、ソノラマ文庫への想いを感じられる一冊です。