本書で猪瀬氏は、主に川端康成と大宅壮一の二人に焦点を合わせ、黎明期にあった日本文壇の姿を描き出している。
他にも、田山花袋、菊池寛、芥川龍之介、島田清次郎といった作家に次々に焦点を切り替えながら、世間の風潮がどういった作品を生み出し、その揺り返しとして次にどのような作品が求められたのか、ということを明快に示している。膨大な資料に基づき、時代の縦糸と横糸をほぐすように事実の因果関係を明らかにしていくさまは、読んでいて爽快ですらある。
いつものことながら、猪瀬氏の取材力・構成力・サービス精神には舌を巻く。
学校の国語便覧では単なる断片にしか見えなかった作家たちの姿が、本書を読むことで一つの時代に息づく人間の姿として見えてくるはずだ。