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聖母マリア崇拝の謎---「見えない宗教」の人類学 (河出ブックス)

価格: ¥1,365
カテゴリ: 単行本(ソフトカバー)
ブランド: 河出書房新社
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宗教人類学者の立場からキリスト教が抱える大きな謎の一つに迫る ★★★★☆
 マリアとは何か? これはイエスとは何かという問いから派生する問題だ。
 イエスの父は「神」。イエスは「神の子」であるから「神」。ゆえに、イエスは「神」にして「人」。
 では「神の子」イエスの「母」は、「人」に過ぎないのか、それとも「神の子」の「母」は「神」か???・・・ああ、まったく混乱してくる。

 こうしたキリスト教内部の神学論争が、古代以来えんえんと続いてきたのだが、一般民衆は神学とは関係なくイエスとマリアは切り離せない存在とみなしてきた。神であろうとなかろうと、マリアさまを崇拝するのは自然なことではないか、と。
 こうした一般民衆の心性の底には、キリスト教普及以前に存在した多神教世界の残存がある。キリスト教が発生した古代地中海世界では、古代ユダヤ教が徹底的に排除し殲滅させたバアール神信仰、エジプトのイシス信仰といった大地母神が残存してきた。ヨーロッパでは古代ケルト世界の地に集中的に出現した母子像である「黒いマリア」の存在がそれを濃厚に示している。一神教のユダヤ教やキリスト教が徹底的に抑圧してきた、大地母神に代表される多神教的要素は、一般民衆の心性の奥底で無意識の領域では生き抜いてきたのである。
 そして近年目立ってさかんになっているマグダラのマリアへの大いなる関心は、『マグダラのマリアによる福音書』という新約聖書偽典によるものだ。『ダヴィンチコード』の爆発的な人気もその動きを促進している。

 本書は、こうしたキリスト教会の内部で交わされてきた論争と、一般民衆の信仰とのせめぎ合いを、地中海世界と欧州キリスト教世界を中心に、歴史的に考察したものである。
 著者はジェンダー論の観点から、キリスト教の一神教がもたらすひずみについて的確な批判的考察を行っている。キリスト教内部の人でありながら、護教論的な姿勢ではなく、あるべき方向に向けて方向性を考察しているのは、宗教人類学という学問の性格だけでなく、著者の人生に対する基本姿勢も預かって大きいことは、半自叙伝である『死者たちのラストサパー』を読むとよく理解できる。
 ただ、全体の構成として、第二部の「聖母マリアとマグダラのマリア」の分量を2倍にして、第一部の「聖母マリアの原像を探る」は大幅に縮小するべきだったのではないだろうか。そのほうがより多くの読者の関心に応えるものとなったのではないかと思う。

 キリスト教徒ではない私は、キリスト教の「多神教化」は好ましい現象であると捉えているが、さてみなさんの反応はいかがなものだろうか。