かなり使える一冊です。
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実に実用的な農業書です。以前レビューした「野菜のソムリエ」は消費者にとってのいい野菜の判別の目安を紹介したものでしたが、本書は選ぶ側の消費者にも栽培する農家にとっても良書だと思います。
野菜づくりをした経験を持つ方は成功と失敗を幾度か経験されていると思います。ひとくちに「おいしく、健康に、栄養豊かに育った野菜」かどうか見分けることは難しいと思いがちですが、ちょっとした野菜の表情を読み解くことができればわかることがたくさんあります。私はトマトときゅうり栽培の農家ですがトマトを食べて実に嬉しいのは食味が抜群の時。ですが、そこにたどり着くのは中々緊張感溢れる日々の管理の積み重ねの成果だと思います。
本書の構成は「おいしい野菜の見分け方・育て方の基礎」編と「野菜ごとの見分け方と育て方のポイント」の二部構成となっています。基礎編は実に参考になりました。特に12Pからの「おいしさの見方、ここが変わる」は必読です。現代の農産物を取り巻く環境は「新鮮、おいしさ、安全、安心」が
求められています。そのアプローチとして減農薬、減化学肥料をうたい有機栽培作物を生産する取り組みがあります。そうした取り組みを求める声は多く「有機、減農薬だから栄養豊かで、味が濃くおいしい」と多少の見た目の悪さには目をつぶり高い金額で買い求める人を良く見かけます。
しかし、有機栽培の野菜がほんとうに美味しいのかというと必ずしもそうとはなっていない現状も
あると筆者は警鐘を鳴らしています。「野菜の品質の3K=きれい、高品質、健全・多収」への取り組みと両立しなければならないと筆者は強く訴えています。この一点、私もまったく同感です。なぜならばこの取り組みをしなければこそ野菜農家の生産と経営が保障されないからなのです。これは空論ではなく、姿、形、色の美しさやバランスのよさは栽培者の適切な管理によって野菜が健康に育ち、
おいしい生産物を生み出していくことに他ならないからです。
有機だから安全では、道半ばでしかありません。農家も消費者も野菜品質の3Kが同時実現した野菜を
届け広く伝えていくことこそ最大の情報開示となるはずとしています。
本書はそのための野菜の見方・育て方を紹介したものです。ご同業の皆様、新規に就農された若い農業者のみなさん。ぜひ、本書を手に取りより良い栽培の手引きとしてご活用ください。あわせて施肥
の方法を綴った「だれでもできる養分バランス施肥―「水・湿度・肥料」一体で上手に効かす」もご活用ください。かなり使える一冊です。