イングリス陪審長、大活躍!!
★★★★★
執筆に集中できる閑静な場所を求め、村はずれの
山荘に引っ越してきた、パルプ作家のティンズリー。
ある夜、山荘が全焼し、焼け跡からティンズリーのものと思しき遺骨が発見された。
さっそく、スローカム検死官のもと、検死審問が行われることと
なり、今回は、うるさがたのイングリスが、陪審長に抜擢される。
大いに張り切るイングリスは、審問記録に注釈を加え、
さらには、独りで火事場の実地検分にまで出かけて……。
堅物で融通がきかないイングリスの視点が加えられる
ことで、前作よりも、ユーモア色が濃厚になった本作。
特に、注釈というメタフィクショナルな仕掛けは、いささか
悪ノリ気味とも思いますが、やはり笑わされてしまいます。
しかも、そうしたイングリスの頓珍漢な言動が、真相を
隠蔽する煙幕になっているのですから油断できません。
審問自体は、次々に登場する証人たちがそれぞれに放言していくという、
前作同様の展開なのですが、事件と無関係と思われたそうした証言の
中に、大小さまざまな伏線が仕込まれているのです。
実は審問の前に、事件の真相を見抜いていたスローカムが、
終盤になって行う怒涛の伏線回収には感嘆させられました。
著者の寡作が惜しまれる前作をもしのぐユーモア本格ミステリーの最高傑作です。
★★★★★
ニューヨーク生まれのユーモラスな芸風の劇作家ワイルドが生涯に四作執筆した内の最後のミステリー長編小説で、昨年(2008年)半世紀振りに翻訳復刊され大好評を博した傑作「検死審問」の待望の続編が初紹介されました。本書を読んだ感想を結論から先に申し上げますと、どうしてこんなに面白い作品が今まで訳されて来なかったのだろうと不思議なほど、前作をも遥かにしのぐ稀に見る素晴らしい傑作だと思いました。前作に続き今回も探偵役はリー・スローカム検死官なのですが、冒頭から陪審長に任命されたイングリス氏の語りで検死審問の経緯が綴られて行きます。今回は最近都会から山間の家に越して来て火事に遭い焼死したと見られる作家ティンズリー氏の件についてスローカム検死官が審問を行います。イングリス氏は自分がホームズのつもりになって審問記録に注釈を加え大いに自説を披露します。今回も田舎者の証人達が関係のある事ない事を延々勝手にしゃべりまくり、菌類学者の婦人がキノコについて話す証言記録に「そんなはずがない。それ見ろ!」とイングリス氏が注釈で突っ込みを入れる所が最高に面白いです。本書の構成は法廷小説の形式を借りた本格探偵小説で、読者の心得としては証人が語る事実の中で重要な事とそうでない事を選り分けて自分で分析判断するのが一番大事な事でしょう。著者は単純なシチュエーションの中で周到且つ大胆なトリックを仕掛け、玄人ファンをも「えっ、まさか」と唸らせる最大限の効果を引き出しています。今度こそミステリーの罠に騙されまいと備える読者も、またもや「当たり前過ぎて見逃す」轍を踏んでしまうでしょう。このシリーズは最後にスローカム検死官が本当は聡明なのに田舎の間抜け者を演じて事件を闇に葬る趣向があり、まさに「能ある鷹は爪を隠す」の愉快さです。これ程の才能の著者が寡作なのは本当に惜しい事で、残り2冊の未訳長編もぜひ紹介して頂きたいです。
やはり、ワイルドは読んでいて楽しい
★★★★☆
やはり、ワイルドは読んでいて楽しい。今回の主人公とも言えるのがイングリス氏。この人のトンチンカンな推理と審問記録の註釈は、『探偵術教えます』を彷彿とさせる。事件と関係がなさそうな間の抜けた証言。日当のために、それらを延々と語らせる(ように見える)スローカム。しかし、そこには、無駄話だけでなく、事件の真相を明らかにするためのピースがちりばめられている。謎解きとしてもフェアで、ニヤリとさせられるラストも相変わらず。