今から三十年近く前、東京文化会館で行われたゼルキン
のコンサートの演奏がＦＭラジオで流されていました。

　ゼルキンの演奏は決して高度な技巧を感じさせるものでは
ありませんでしたが、最初から最後まであたかも１つの曲で
あるかのように、素晴らしい集中力で緊張感を途切れさせる
ことなく24曲を一気に弾ききりました。
　その演奏のあまりの美しさに、最後の曲が終わった後も、
暫く立ち上がることができませんでした。

　もう一度聴いてみたくても、その演奏がレコードやＣＤに
なって出ることはないだろうと諦めていましたが、出ていたんですね！
　早速入手して聴いてみました。

　確かにそれは聞き覚えのあるゼルキンの前奏曲でした。
でも二十数年前と少し違って聴こえるのはコンサート録音
とレコード録音の違いでしょうか。それとも歳月のせい？

ゼルキンのショパンというと、ビックリされる方が多いと思います。ゼルキンのレパートリーは、ハイドン、モーツァルト、ベートーヴェン、ブラームスと思われているので。ですが、来日公演で、このショパンの『２４の前奏曲』がプログラムの後半にあった演奏会に、私は聴きに出かけたことがあります。普段、私はあまりショパンは聴きませんが、本当に美しいショパンであったことを覚えています。このＣＤを聴くと、その当時のことが思い出されます。
ゼルキンは、ヴィルトゥオーゾ型のピアニストでもあったことを再認識させてくれるＣＤだと思います。