気が狂いそうになるほど美しい音
★★★★★
この2つの曲の美しさがこれほどまで露にされたことが他にあっただろうか?
退廃と健全との間、あるいは此岸と彼岸との間を大きく振幅しているかのような、もう通常の意味での「演奏」の領域を超えているひとつひとつの音。ギュラーだけがこれらの曲の真の姿をさらけ出してくれた、とさえ思われる。
名前も耳にしたことのないこのピアニストの存在は、識者の方々のブログ等で初めて知ったのだが、それによると、この録音はアルゲリッチが世捨て人同然だったギュラーに懇願して実現したとのことだ。
ぞっとするほどの美人で、図抜けた才能のピアニストだが、所謂「幸せな」生涯を全うした女性ではないような感触がある。
アルゲリッチの音は大嫌いだが、彼女のおそらく無私な説得がなければこの音が歴史の中に刻印されることもなく、永遠に失われたという事さえ知りえなかったはずだとすれば、アルゲリッチの行動には心打たれるし、感謝のほかない。
自分が知らないだけで、実は世界には美しい音、卓越したピアニストが満ち溢れているのかもしれない。