実況といっても、1レースの実況が丸々載っているのではなくて、そのレースそのレースの、まるでドラマか何かのような「名調子」とそのレールについての杉本さんの解説や思い出が記されています。「名調子」を読むと、そのときのレースの興奮や、はずした馬券の思い出や、まるでタイムスリップしたかのように「あの日のわたし」に還るのです。
競馬を見ない方はピンと来ないかもしれませんが、「その日」のレースをビデオなりで見たり、成績表を見たりすると、「ああ、あの時はXX円あの馬に賭けておけらになったんだ」とか「このレースは4コーナー手前からすーっとあの馬が抜け出したんだよな。あれがすごかった」とか、
歌舞伎で言うところの「団菊爺(先代の団十郎と菊五郎はすごかったんだよ。とニューカマーに自分が歌舞伎を見始める前の役者のひいき語りをしてニューカマーを困らすお爺さんのこと)」みたいに往年の名勝負を思い出してジ~ンとくるわけです。しかも競馬は毎週開催されるわけですから、今日のレースにジ~ン、何年か前の同じレースのことを思い出してジ~ン。馬券が外れたときは、ジ~ンというより「キーッ」ですが。
でもこの本の名実況を読むと、平日でもジ~ンとします。ときには目頭が熱くなります。純粋に馬券と配当だけの競馬ファンには実況など全然関係ないですが、「競馬はドラマだ!ロマンだ!」とかちょこっとでも思ったりすると、自分が関わったレースにいともかんたんにタイムスリップしてしまうわけですね。
よく「無人島に1冊だけ本を持っていけるとしたら?」というのがありますよね。そういうわけでわたしの1冊は迷いも間違いもなくこれです!