心のこもった暖かい演奏
★★★★★
NHK交響楽団というとなんとなく優等生的なすました演奏をするという印象を持っていましたが、こういう演奏をしていたのですね。マタチッチとベートーヴェンに対する共感と尊敬の念がそうさせたのでしょうか。全体を通して、各楽器がしっかりと音を鳴らして、そして心がこもっていて暖かい演奏です。そしてマタチッチもいろんなことをやっていますが、決して不自然になっていません。巨匠といわれる所以でしょうか。
1楽章は意外と普通でしたが、2楽章で腰が抜けました。ティンパニーの強打と、独特の間の取り方、テンポの揺らし方は尋常ではありません。なんとダイナミックな音楽なのでしょう。3楽章は感情を込めたぬくもりのある演奏です。そしてクレッシェンドとともに加速した後にテンポを落として歌わせるやり方など、印象深いです。それがぜんぜん人工臭がなくていやみに聞こえません。警告音の後の名残おしい雰囲気など、夢の中のようです。そして、終楽章のなんとドラマチックなことでしょう。後半のコーラスと弦の弱音のフェルマータの後の女性コーラスと金管の掛け合いなど、ここはこんな風に輝かせなくっちゃ、と思わせるほどすばらしいです。そして、最後は多くの指揮者が安全運転する中、最速でオーケストラを突進させます。(フルトヴェングラーのバイロイトはもっと加速しますが・・・)
現代のスマートなベートーヴェンを聞きなれた耳には奇異に聞こえるかもしれません。決して機能的でない(決して下手ではない、一流でもないが・・・)オーケストラの朴訥な音とあいまって、田舎くさく聞こえるかもしれません。しかし、その音楽のなんと暖かいことでしょう。若干録音は古いですが、私の愛聴盤のひとつになりそうです。