グールドの閉じた世界のバッハは僕には必要不可欠なものである。そしてこれからも多くの人にとってもそうなるだろう。そこはCBSもスタインウェイも無関係な『触感』のバッハだ。
グールドの演奏の中で最も感動的なのは,7番ホ短調,9番ヘ短調,13番イ短調の組み合わせだろう.インヴェンション7番では,5小節の第2音FisをグールドはFで弾いているが,憂いの効果が出てよい.シンフォニア7番は,短6度上行のテーマ,後半1/3から多用される減7度の和音,37小節!と42小節のカデンツ,40・41小節のソプラノとアルト声部におけるテーマのストレッタ43小節の10度跳躍を持ち,バッハの特徴を余すところなく表現した曲である.10度跳躍はインヴェンション9番で,減7度の和音はインヴェンション13番でも出てくる.インヴェンション13番ではグールドは爆発的な速さで演奏し,コーダ部でリタルダンドしてシンフォニアに移行するが,それはプレリュードとフーガを聴く思いである.シンフォニアは3重フーガに近い形式で,41・42小節で第2のテーマがソプラノで奏でられながらアルトとバスで第1のテーマがストレッタで入るところは緊張の絶頂である.