元気な鉄道が元気な筆致で描かれる
★★★★★
1本の列車に、これだけ多くの人々が関わっているのだなと改めて思い起こされる「重層的なルポ」の数々は、読み応えがある。たとえば「DC特急<つばさ>惜別の旅路」と題された記事。筆者は、車掌に張り付いて冷房の調整作業の面倒さを説明したり、思い出話をつづってみせたりしたかと思うと、一転、板谷峠の急勾配との戦いの歴史を、克明なデータを元に紹介してくれたりもする。
途中からは運転席に乗り込み、災害による徐行区間で定時運転と乗客の安全を両立させようとする運転士の苦労も描かれる。終点に着いた後には、鉄道管理局を訪ねて輸送指令所でCTCシステム操作の見学まで。もちろん、車内の乗客の様子も生き生きと描かれるなど、盛りだくさんな内容に圧倒される。
そんな、「元気な鉄道」が、エネルギッシュな取材を元に、元気な筆致で切りさばかれているのが小気味いい。一方で、将来の分割民営化につながる「ひそやかな影」めいたことごとが、新聞記者出身らしい冷静さでそちこちにちりばめられてもいる。
鉄道を舞台にした、時代の記録集といってもいい作品だと思う。