非常に冷静な分析
★★★★★
教育論というと「生きる力」だとか「豊かな心」といった類の理想論が幅をきかしているイメージがあります。
かくあるべきという理想ばかりが一人歩きしてしまい、現実を伴わないことも多いのではないでしょうか。
本書はそういったよくあるイデオロギー的な論争とは一線を画しています。
経済学という分析ツールから教育の意義と必要性を改めて問い、
「塾に通えば頭が良くなる」とか「高所得者はたくさん投資できるから子供も優秀になる」といった論調が
必ずしも事実に基づかないことを指摘します。
日本やアメリカでの多くの実証研究によると、子供の学力に決定的な影響を与えるのは親の社会的地位だそうです。
学校外の教育投資額や教師の質は子供の学力に有意な影響を与えないといいます。
情緒的になりがちな教育について考えるとき、実証的なデータをもとにした本書は役に立つと思います。
ごもっとも、でも教育を経済学だけで説明するのは厳しい
★★★★☆
とても平たい表現で書かれていて、ときどきこれはエッセイかしらと思ったりしたけど、教育経済学に出てくる基本の部分は人的資本論、外部効果、ピアグループ効果などの用語も含め説明されています。 「教育は投資と消費の両方の特徴を持っている(子どもの将来への投資の面と親がとりあえず子どもに教育を受けさせることで安心、満足するという消費の面)」と言われると、そういわれればそうだよなあと思ったり、「子どもに教育を受けさせれば受けさせるほど、その子どもの能力が明らかになり、できる子とできない子を振り分けるという世知辛い面をもっている」みたいな事が書いてあると、よく考えればそうだなあ、でもそれって親はつらいよなあと思ったり、経済学的な視点から教育を見ることは教育をある意味客観的に冷静にみる上でいいことだと思いました。
本の後半の格差の問題、階級や学歴の「再生産」(カエルの子はカエル、お金持ちで学歴が高い家の子は学歴が高くなり、貧乏な家の子は学歴が低くなって貧乏を繰り返す)の部分は読んでいて切なくなったけど、現実のところ世の中はそうなっていると思う。
私は教育は基本的人権で、経済学的に説明できなくても人生を豊かにするものだと思っていて、「ゆとりの時間」には反対だけど「生きる力」というビジョンはアンビシャスだけど良いと思っているので、この本でいくつかの点でちょっとひっかかったけど(でも著者の言うことはやっぱりごもっともという感じでしたが)、著者は教育の経済学的考え方では説明できない部分も理解尊重していて、その面には好感が持てました。
欲をいえば、たびたび出てくる数式やグラフを説明するときに、なにか具体的な例をあげて説明したり、グラフを比較したりしてほしかった。 一般論を説明したグラフや数式ををみてもなかなか実感がわかなくて、自分が理解しているのかしていないのかを判断することすら難しいというか(きっと理解できていないということでしょうね)。 数学の基礎も忘れ、「経済学という授業をたぶん大学で受けたかもしれない」ぐらいの記憶しか持っていない私には、数式とグラフの読みが厳しかった。 例えば「A子さんの場合とB子さんの場合」とか、「このグラフの中で、インドはこの辺、日本はこの辺、フィンランドは。。。」見たいな具体的な事例があると、もっと取っ付きやすかったかもしれない。 もしかしたらそんなことはできないのかもしれませんが。。。
もう一つ言えば、日本ではどうやら教育効果や経済学的に教育を評価するために必要な統計をきちんととっていない、あるいは公開していないようで、著者も言っているように著者の論理をサポートするデータに基づいた実証分析がされておらず、その部分でやはり今ひとつ説得力に書ける部分も少しありました。
とても面白かったです。 でも教育って奥深いんだなあと思いました。 優しい財政学の本や社会保障の経済学の本などを少し読みたくなりました。
考え方の提示
★★★★☆
経済学について知りたい人にとっては、あんまり詳細な分析方法が紹介
されているわけじゃないので不満かも。
教育問題について知りたい人にとっては、分析される論点が絞られすぎ
ていて、「教育を考えるには、もっと、あれも、これも考えなきゃ駄目
じゃないか」とか思ってしまって不満かも。
でも具体的な提言のあれこれや、提示される「手法」がこの本の眼目な
のではなく、きちんと考察の範囲を限定して、しっかり要素を選り分け
て分析(まさしく「分析」)することの大事さこそがポイント。
先日別れをつげた、どこぞの教官のように、いろんな要素をゴチャ混
ぜて思いつきの印象を垂れ流すことを「考える」とは言わないのだ、と
いうことを教えてくれます。
なかなか結果を評価できないんだけどね、という著者の達観も好感です。
教育の経済学入門書
★★★★☆
経済学は,その一つの見方として「選択の科学」であるといえる.つまり,予算や人材などの限られた資源の制約の中で,それぞれの目的を追求しようとする政府や人々(消費者)の選択を考える科学なのである.そのように考えると,教育も立派な経済学の対象になる.
本書は,経済学のトレーニングを受けていない一般の読者に対しても,このような視点から教育を考えると何が見えてくるのかというのを提示している.例えば,クラスの最適規模を巡る議論などがその例に当たるだろう.
複眼思考で教育を見るための本
★★★★★
とても面白かった。こういう経済学的な視点も、教育を見るときに必要なことだと思った。
たとえば、現在の学習指導要領は3割も教える内容を削ったわけだから、当然費用も3割カットできるはずである。公教育の費用は税金である。国家予算、自治体予算に占める教育予算は小さくない比率を占める。よって税額も若干はカットされなくてはおかしいはずである。がそうはなっていない。なぜか。
といった思考をこの本によって促された。