一族の悲劇
★★★★★
『シルマリルの物語』にも出ていたトゥーリン・トゥラムバールを主人公に据えてJ.R.R.トールキンの息子クリストファーが纏め上げた一冊。
紙も厚いので、それなりに分厚く見えるが、物語自体は300ページもなく、文字も大きく余白がゆったりとってあるので見た目ほど量はない。
物語は『指輪物語』より何千年も前の時代。トゥーリンの父フーリンは、『指輪物語』でいえばサウロンに相当するようなモルゴスにつかまる。
フーリンがモルゴスに屈せず彼を蔑んだため、モルゴスはフーリンの一族を呪い、フーリンを殺さず全てが「見える」ように座らせておく。
そんな運命の下に置かれてしまったフーリンの子トゥーリンは、父が戦から帰らず近所が略奪されていく中、
身の安全のためエルフ王シンゴルの許へ送られ養育される。妹ニエノールはまだ生まれていなかった。
再三の招きにも関わらず母モルウェンとやがて誕生した妹ニエノールはシンゴルの土地へやって来ず、こうして家族は再会しない。
父は行方不明、少年時に母から引き離されて悲しみ、母と妹も来てくれずに落ち込むトゥーリンは、苦痛と呪いの双方から影につきまとわれた青年に成長。
また母に似て誇り高く、強い自尊心を持ち、周囲ともトラブルが起き、やがてシンゴルの許を去った彼の人生が始まっていく。
トールキン未完の原稿の山を息子さんが苦心惨憺まとめて編集した本書は、行く先々で災いが起こるトゥーリンの呪われた生涯を淡々と描き、
彼の複雑なパーソナリティや、彼に課せられたモルゴスの呪いをはねのける機会も何度もあったことがわかっていく。
既に他の書籍で語られている話ではあるが、トゥーリン中心にまとめ直したことで、彼の一家に特化したストーリーとして読みやすい。
冒頭にはこの時代のトールキン世界に詳しくない読者に向けた序論がある。また巻末に、この物語の成り立ちと歴史、息子さんの原稿のまとめ方が解説されている。
英文は、身分ある人々の会話などが少し古めかしく、わかりにくい表現も少々あるが、全体的には平易。
『指輪物語』も手がけているアラン・リーのカラーイラストが8枚ほど挿入されている。