サイクルロードレースをテーマにした本格的な冒険小説
★★★★☆
戦前の日本を舞台に開かれた本州縦断自転車ロードレース。その白熱の行方を描いた作品である。’04年、「このミステリーがすごい!」国内編第5位に堂々ランクインしている。
戦争の足音が忍び寄る昭和9年、ある男がとんでもないレースを計画し実行に移した。山口県下関から青森県の三厩(みんまや)まで、本州を自転車で縦断するという<大日本サイクルレース>である。しかもレース用ではなく、泥よけや荷台がついた重たい商業用自転車を使用するというのだ。しかし人気は上々、海外からの参加も含めて、決して安くない参加費を工面して、高額賞金目当てに、大人数が参加する。それを取材する側もフランス人などがいて国際的だ。
山師的な主催者の狙いや、レースの裏にちらつく軍部の影、アマチュア化に逆行する大会に反対し、妨害を画策するブルジョア競技団体の動き、さらに、謎めいた参加者たちの真意など、さまざまな思惑がレースの背後で複雑に絡み合い、ただでさえ過酷なレースはより厳しいものになっていく・・・。
はじめは個人参加だった響木は、越前屋、望月、小松という、一癖も二癖もありそうな者たちに声をかけ、寄せ集めのにわかチームを結成してレースに挑むのだが、彼らの運命は・・・。
本書は、昭和不況の後遺症にあえぎ、戦争の泥沼にはまり込んでゆく時代を活写しながら、同時に自転車レースの魅力をたっぷりと描いた、冒険小説の傑作である。