いにしえの世から桜の美しさを表現してきた日本
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桜の美しさは今の世も昔も人の心をとらえたものでした。本書はそんな素晴らしい「桜」の美について日本の多くの美術品を取り上げ、桜を題材にした作品を網羅し、様々な角度から検証した企画です。「桜」を題材にした絵画、陶芸、着物、漆器の名品を400ページというボリュームのある1冊にまとめてあるのは圧巻でした。
なお、冒頭にある狩野博幸同志社大学文化情報学部教授の「桜図を見る‐『俳諧類船集』にみちびかれて‐」の文章が含蓄に富んだ内容だったと思いました。
ほとんどがカラーですので、どのページからも桜をモティーフにした作品の美しさが飛び出してくるようです。平安時代末期の国宝「寝覚物語絵巻」を始めとして桜がいかに多くの日本人に愛でられてきたかの経緯を知ることができます。
伝狩野永徳の「源氏物語図屏風」、「醍醐花見図屏風」、円山応挙の「源氏四季図屏風」、酒井抱一の「桜に雉子図」、川合玉堂の「春景山水」、上村松園の「花のにぎわい」、鏑木清方の「桜姫」、歌川広重の「名所江戸百景 千駄木団子坂花屋敷」などの絵画の艶やかさは絶品です。
着物の図案などに桜が取り入れられるのは当然として、野々村仁清の「色絵吉野山図茶壺」、並河靖之の「七宝黒地四季花鳥模様花瓶」などの作品にも桜が描かれています。重文の「桜螺鈿鞍」、「枝垂桜蒔絵掛硯」などの工芸作品にも美しい桜が取り入れられており、眺めているだけでその美しさが感じ取れます。
桜から受ける妖艶さだけでなく、可憐な桜も美しいですね。日本人は、散る桜にもののあはれを感じとってきました。過去の名品と桜のマッチングに日本人の感性の豊かさのほどを再確認しました。桜好きにとって、堪能できる1冊となるでしょう。