むしろ代筆横山光輝といった方が・・・
★★★★☆
表紙の著者名を読まずに漫画だけを読んだら、これは手塚治虫の作品で、横山光輝が描いたとはだれも思わないだろう。ロック・ホームからヒゲオヤヂ、アセチレンランプ、花丸博士、ターザン、ハムエッグ、シュトロハイム博士、メリィ嬢が、完全な当時の手塚タッチで描かれているからだ。むしろ「原作」手塚というより、「代筆」横山光輝に当たるのではないだろうかとさえ思われる。横山に限らず白土三平、つげ義春などもデビュー当時は、モロ手塚タッチの漫画を描いていたのである。
「ターザンの洞窟」は「ジャングル大帝」の設定をそのまま借りているあたり、当時の超多忙な「手塚事情」が思いやられるし、漫画勃興期のメチャクチャなエネルギーも感じとれる。要は何でもありだった。新興文化に対する飢えのようなものも。ターザンとメリィらしき白人少女が、アフリカで領地争いをしているのは、「ジャングル大帝」のエピソードと合わせて見ると面白い。
「黄金都市」は手塚のオリジナルと比較してみると、さすがに手塚の方が描線がスピーディで、垢抜けている。リライトの横山の絵は、コドモこどもした印象である。描線に独特の生命感が出る手塚に対して、わかりやすいストーリーテリングが身上の横山の違いだろうし、そもそも年季の差でしょうか。
「仮面の冒険児」のなかの怪人「20のトビィ」という登場人物は一見意味不明だが、登場人物のセリフにもあるように、当時「話の泉」というNHKラジオの人気クイズ番組があって「20の扉」という連想ゲームがあったように思う。「とびら」を「トビィ」と言い換えて名前にしてしまっているようである。巻末解説にもなかったので。