コンピテンシーが活用可能か、その本質はどうか、初めて総括。
★★★★☆
著者の一人、永井隆雄です。
実務の世界では1998年から2004年くらいまでの6−7年くらい、コンピテンシーが専門というコンサルタントがたくさんいました。
私自身も依頼を受けて10社ほどのコンピテンシーモデルを作りました。また、私の著書『コンピテンシー活用便覧』はコンピテンシー本として、決定版とされながらも、1冊5万なので、売れなかったです。ほとんどが社労士などコンサルタントに購入されました。
私自身のコンサルティングはヒューマン・アセスメントや報酬設計が主で、コンピテンシーの実績はそんなに多いほうではないです。
コンピテンシーの本質はPM理論であり、これは三隅二不二(当時・九州大学教授)が編み出したものです。それは1970年代のマクレランドの研究に10年以上先んじるものです。
コンピテンシーは本質的に行動基準ですが、それは職務分析をすれば出てきます。三隅はそれを因子分析で実証しました。因子分析はサイコロみたいなやり方なので、理工系の統計分析ではあまり使いません。古典的な方法です。しかし、それは当時の事情からして仕方がないです。マクレランドは質的調査で行い、計量化はリチャード・ボヤティズが1980年代に行ないます。日本よりも20年遅れて米国ではコンピテンシーが量的に研究されることになった。スペンサー夫妻は再び、質的調査に戻ったので、インタビューを重視した。
世界で初めてコンピテンシーを研究したのは九州大学です。三隅は大阪大学人間科学部の初代学部長で立ち上げました。日本人として数少なく評価されている組織心理学者、後継者が古川久敬とこの本の編者山口裕幸です。九州大学で再び、コンピテンシーが総括されました。この本はコンピテンシーの決定版ですが、実務的にはややイマイチです。学術書としてはいい本です。
今でもコンピテンシーに興味があれば、一読の価値があります。
「コンピテンシーとは高業績者の行動特性」でないこと、大半のコンピテンシー専門家がマクレランドの原典を読んでいないために外交官の話をすることなどがわかります。1970年代のマクレランド研究は、少なくとも外交官ではなく、消防士や警察官などが対象でした。こういうのってIQ(基礎学力)で選べないことを示唆するものでした。この辺の事情は米国では共通認識になっています。ゆえに、Competency is a concept related to recruitment and selecrion. になるわけです。
永井隆雄:略歴_1963年生まれ。慶應義塾大学文学部卒業。同大学院博士課程修了(組織心理学専攻)。その後、九州大学大学院経済学府博士課程修了(経済学専攻)。日本総研、経済同友会、アーサーアンダーセン(朝日監査法人第6事業部)、MSC(米国DDI代理店)、日本大学講師、LEC大学講師、フリーランスのコンサルタント、翻訳・通訳などで実務経験、教育経験を積み、現職はISRI代表、株式会社JEXS兼務。