可愛らしい音楽家
★★★★★
ガブリエル・バンサンの著書と初めて出会ったのは話題の処女作『アンジュール ある犬の物語』でした。嗚呼、何て著者のデッサンは複雑な描写でもなく柔らかなどちらかと言うと線の少ないデッサンなのにこんなにも物語るものがあるのだろうか…そして言葉数が少なくとも、それ以上に与えられるものがあるのです。バンサンさんの自在な線が描く世界は何て美しいのか、まるで描かれたもの全てが動き出してしまうのではないかと思ってしまうのです。此方の『ふたりは まちの おんがくか』では、雨漏りする屋根の修理代を集めるためにセレスティーヌが歌をアーネストがバイオリンを持って街に出て音楽を奏でます。思わず可愛らしい発想のセレスティーヌと、セレスティーヌに褒められてちょっぴりエッヘン顔のアーネストがとても微笑ましくそんな二人を見ているととても幸せな気分になりました。父親代わりのクマのアーネストオジサンと捨て子だったセレスティーヌの愉快で素敵な日常のお話がバンサンさんの豊かな色彩の淡い柔らかな水彩タッチで、確かな優しさと愛に溢れた眼差しで愛を物語っています。私事ですが私自身、父親や家庭環境に恵まれない家庭で育ったもので…ゴミ箱の中から偶然見付けたまだ目も開かない赤ん坊のセレスティーヌにこんなにも一心に愛情を与え、心配するアーネストオジサンが本当に素敵でその表情や仕草を見ているだけで何だかとても微笑ましく羨ましかったです。これからアーネストとセレスティーヌにどんな物語が待っているのかとても楽しみです。アーネストオジサン、これからもずっと素敵なパパさんでいて下さいね。バンサンさんの作品に触れる度に、大切な何かを思い出し少しだけ童心に戻ったような懐かしい響きが心の中に温かと広がっていくようなそんな気持ちにさせられます。素敵な絵本をいつもありがとうございます。そしてこのシリーズを心から愛しています。