本書は、須賀を愛する著者が、今は亡き作家の見たミラノを写真とエッセイで旅する美しい紀行文。須賀と夫のペッピーノがいたコルシア書店(今では名前が変わっている)や夫妻が暮らしていたアパートを訪ねたり、彼らを知る人へのインタビューを通じて、須賀が過ごしたミラノを手繰り寄せていく。いつの時代でも、ミラノは生の喜びにあふれている。老いも若きも、富める者も貧しき者も、力強く人生を謳歌している。しかし、この旅で著者に見えてきたのものは、須賀敦子の「孤独に敏感な魂」だった。
「実際の生活では孤独な影などはみじんも見せず朗らかに生きていただろう。だが作品を書いたとき、“宇宙のなかの小さな一点”のような魂の姿が描き出されたのだった。須賀が描いたのは悲愴な孤独ではない。硬質な輝きをもった恒星のような孤独、人を励ますことのできる力強い決意だ」
今のミラノを活写した写真は、生き生きしながらヨーロッパのシックな雰囲気を伝えるもので見飽きない。簡潔で美しい文章と相まって、須賀の作品を読んだことのない人にも十分魅力的である。しかし、須賀の作品を1冊でも読んでいると、本書は一層味わい深いものとなるだろう。(松本肇子)
夫と共に働いていた本屋はともかく、夫の家族のお墓の写真や彼女に片思いしていたらしい友人の話まで)
「公表した」この本は、見た感じは上品で須賀敦子の作品集の持つ
雰囲気をこわさずにはいるものの、内容としては少々彼女の私生活に
つっこみすぎた感が否めなかった。
もっともそれが目的のシリーズなのかもしれないけど
こういったものを世に出すのには早すぎた、ということなのかも。
須賀敦子の大ファンで彼女のミラノ!生活を覗きたい、
でも機会が作れないという人、あるいは著者自身のファンにはいいかもしれない。
私的には、時折目に付く大竹昭子の感想(須賀敦子に直接関係のない)
が目に付いて読みにくい。読みたかったのは彼女のミラノではなく
あくまでも須賀敦子の足跡のついたミラノなのだから。
50代の著者が自分のペースですすめたミラノ取材は、ハラハラする冒険的要素はない。それがかえって、ミラノでのゆったりとした時の流れと、人なつっこいイタリア人を強調している。撮り下ろしの写真も効果的に使われていて、須賀敦子への想像はふくらむ。
40年前にイタリアにひとりで飛び込んで、活動した日本人女性の孤独。それは悲愴なものではなく、宇宙のなかの星のように、小さくても輝きをもった孤独だった。その事実は、人生をどう生きるかという、現代人がかかえている問いへのヒントとなることは間違いないだろう。