曲本来の姿が見える
★★★★★
どの曲も、強制や歪曲から解放されて、その曲本来の姿でいる。
しかも、その素質を十分に開花させて。そんな思いを持った。
ブレンデルの達した、自在とも言える境地でこそ、実現できたに
違いないと感じた。
好きな「悲愴」の第2楽章。そうだ!この曲は、こんな形をして生まれて
来たんだ。それでいながら、お気に入りの聞かせどころは生かされている。
21番、ワルトシュタインの第3楽章。びっくりした。こんなに澄んだ
音楽だったのか。何という清らかさ。しかも、しっかりとした存在感がある。
速い部分でも、速さの意味が伝わるのでそれまでのイメージが壊れない。
後期の曲にも、今度は不満を感じなかった。以前の不満は、
「通り過ぎるのが速すぎる。」という点にあったようだ。
今回は、「感じる時間」がしっかりと確保されている。
長すぎず、短かすぎず、絶妙の間がある。
初期の曲や、これまで聴かなかった曲にもお気に入りはたくさんできた。
この全集の人気は分からないけれど、良い録音と、ブレンデルの深く、
澄み切った音。核心に迫る強弱やテンポの設定で、ベートーベンを
ズバリと表現できていることなど、僕には納得・感動の全集だ。