言葉の向こうに江戸時代の人々の生活と活気が感じられる
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大阪名物パチパチパンチと言えば島木譲二だが、あれ、「胸叩き」と言って、江戸時代からある有名な伝統芸なんだぜ。そういうどうでもいいような世間のことが、延々と書かれている。絵はないが、まるで江戸時代のバブリーなファッションカタログ、流行ガイドのよう。
このころの人々は太平の世を享受し、街道道が整備され、商品経済が発達して、お伊勢参りなどがはやり始めた。寺子屋が普及し、庶民でも字が読めるようになって、絵双紙や道中記(旅行案内)が多く出版されるようになった。粋な連中は、江戸でも、地方でも、こういう嬉遊笑覧のような記事を読んで、なんでもかんでも子細まで通ぶっていたのだろうなぁ、と思わせる。時代劇や落語の世界が、長屋の裏側、色町の支度部屋まで手に取るように見えてくる。
ただ、けっこう漢語混じりの独特の文体なので、読み慣れるまでが大変かも。また、しばしば時代劇や生活史などの時代考証にまじめに利用されることがあるが、もともと学者が書いた本ではなく、世襲町役人の若旦那があちこちの本の読みかじりで書き散らしたヨタ話で、ジャーナリストとして実際に自分自身で直接の見聞したものではないので、どこまで本当だったのか、わかったものではない。まあ、それはそれとして、こんな江戸時代のホイチョイ風のおたのしみガイドで、暇にまかせ、あちこち読みつまんで、粋というものを味わってみよう。