ありがちな心理学史とは一味も二味も違う。
★★★☆☆
大学の授業の教科書として使いやすそうな心理学史の本。心理学入門書の第1章として書かれたような(ドイツ・アメリカ心理学史を年代順に記述しただけの)ありがちな心理学史とは、一味も二味も違っていた。
ドイツ・アメリカ心理学史に2章、日本の心理学史に1章を当てている。また、他の章では、教育と心理学、戦争と心理学、といった具合に、特定の領域にスポットライトを当てて、かわっていく社会からの要請とそれに応えるかたちで発展していく心理学との関わりを浮かび上がらせている。知能検査の誕生と展開を取り上げた章では、その過程で、オリジナルのアイデアが失われ新しいアイデアが付け加えられていくさまや、開発者の思惑を越えて知能検査が使われるようになっていくさまを描き出している。何故歴史を学ぶのか、どのような立場で歴史を書くのか、についての話で幕を開け幕を閉じるあたりに、著者らの心意気を感じた。
私自身は、心理学の歴史を顧みることで心理学という一枚岩ではない学問の特徴が見えてくるのではないかと期待して本書を手に取った。その意味では、主流の学説の変遷というような内部主義的に描かれた心理学史を求めていたわけだが、学問史には社会史・文化史として捉える外部主義的な描き方もあることを(考えてみれば当たり前なのだが)本書を読んで初めて知った。これは嬉しい誤算であった。