アン・サリーの歌う「レモン林」という曲は、スティールパンの伴奏による小笠原地方に伝わる民謡です。日常ではあまり聴くことのない不思議な旋律による音楽世界が非日常へといざなってくれるようでした。アン・サリーの声が、人一倍温かみを持っていますので、聴いているだけでリラクゼーション効果があるようです。

東儀秀樹の「大河悠久」のように、東洋の音楽文化の香りを残しながら現代的なセンスで奏でられる楽曲もまた素敵です。篳篥という日本古来の雅楽の楽器でメロディーを奏でながら、二胡・琵琶・笛という東洋の楽器と西洋のオーケストラとのアンサンブル、というように東洋と西洋の音楽の融合が図られています。

イム・ヒョンジュの歌唱による「春よ、来い」には強く惹かれました。ポップスの感覚でオペラを歌う韓国の若きテナーの美声をたっぷりと味わえます。
中国古筝奏者のウー・ファンによる「彩雲追月」は、懐かしい戦前のヒット曲「南の花嫁さん」のオリジナルにあたり、アジアの融合がうまく図られていました。

西洋音楽は緊張を伴いますが、東洋音楽は弛緩をもたらすようです。厳格な西洋の12音階と違い、東洋は、二胡や篳篥・尺八に代表されるようにポルタメント系の音程を備えています。西洋の記譜では表現できない揺らぎや滑らかさが東洋音楽の本質であり、そこからもたらされる癒しが愛される理由のように感じているのですが。

音楽に浸りたい、という気持ちが沸くときはどこか心が疲れているのだと思っています。刺激的な音楽よりも癒しを求めるのも無理ならぬことだと納得しています。
解決のできないものを癒してくれる存在として、この「NEW ASIA　III」は一服の清涼剤のような働きをしてくれますので、日常には欠かせません。