研究分野の紹介?
★★☆☆☆
本書は研究分野の紹介と言ったところだろうか。あるいは、シンプレクティック幾何学の応用分野の紹介と言えば良いだろうか。
理由としては、統計力学を改めてシンプレクティック幾何学で再考察する作業をこのような非常に少ない紙面で行うとしていることである。更には測度論を基礎にした確率論で統計力学を記述していることも本書のような小紙面ではかなり無理があると言える。
これらの理由に起因する本書の読み難さ、記号や定義などの唐突さなどがいくつか挙げられる。
I. シンプレクティック幾何学(あるいはハミルトニアン形式)を第1章で説明しようとしているが、本シリーズの「物の理・数の理 (2) 数学から見た古典力学」を参照するように強いられる部分が多すぎる。
II. 3.1節の「確率論からの準備」にある測度論を基礎にした確率論は天下り的に導入されており、測度を導入する意味あるいは有益さが感じられない。
III.これらの難解な数学の分野を基礎あるいは道具として用いているにも拘わらず系統的に統計力学を構築すら出来ていない印象を受ける。
IV.熱力学に至ってはシンプレクティック幾何学や確率論すら現れない状況である。
特に理由IVについては、熱力学を本書のような立場から再構築するのは非常に困難な作業であると、著者自身が前書きで告白している。
上述のことからレビュアーは、本書は研究分野の紹介を行っているものと判断し、特定の研究者を除いて大半の学習者には本書は読み物として理解する程度で良いのではないかと考えた。物理や工学の学生方には、久保亮五「大学演習 熱学・統計力学」をお奨めします。