ブラジルの才能あるミューズは、やたらと夭折者が多い。エリス･レジーナにしろ、シルヴィア･テリスにしろ儚い人生だった。そしてこのナラ･レオンも47歳という若さで亡くなっている。
転機となった「美しきボサノヴァのミューズ」以前の作品集である今作は、クラウディ･サイドというタイトルどおり、どこか物憂げで切ない楽曲が30曲も収録されている。

お金持ちのお嬢さんだったナラのマンションは、たくさんの才気溢れる音楽家が集い、ボサ･ノヴァ発祥の地となったのは有名だが、その後、64年にブラジルは軍事政権が台頭し、呑気にボサ･ノヴァを歌っている状況ではなくなった。ナラも逸早く、ボサ・ノヴァとの決別をし、軍政批判など社会問題をテーマにした作品を生み出していく。そんな社会活動家としての側面を警戒され、軍部に追われ、パリに亡命したのが、71年。

そんな64年から71年までの状況を鑑みながら聴いてみる。しかし、ここには攻撃的な感触は見つからない。ただ儚げな美しさ、それが際立っていて、サンバのサウダージ的側面、それはもっと個人的な自分の在り方というものを歌っているように聴こえる。

ボサノバに自分の意見や主張を載せて強い調子の声で歌う。。。今までもっていたナラのCDの力の抜けたゆったりした歌声とはまったく違う感じのCDだなあと思いました。でもやっぱりいい声だし、いい歌がたくさんで、これもいいなあと噛みしめながら聞いています。　

昨今のボサ・ノヴァブームもひと段落した感のある今、改めてききたいボサ・ノヴァミュージシャンにナラ・レオンはいかがだろうか。ボサ・ノヴァの創世記を支え、『ボサ・ノヴァの女王』なんていわれている彼女。けれど、このアルバムを聴いてみると、ナラがただ華々しいだけでなく本当に自然でクレバーで、身近に感じられる歌心の表現者であることが分かると思う。まさに、ちょっと曇った休日に、もの憂くもシアワセに楽しめるアルバムです。