極上の文章
★★★★★
冒頭に置かれた「三人の女」を読んで、
「やられた!」と思わない小説家はいないだろう。
アフリカでかつて出会った三人の女との交渉を、
あくまで素っ気無く、乾いた手触りの文章で書き留める西江氏の目は、
旅の古強者ならではの冷徹さに溢れているが、そのことがいっそう、
おそらく二度と出会うことはない人々や風景に対する、
決して感傷的ではない愛の深さを感じさせるかのようだ。
「文学的」感性の持ち主を標榜する学者はザラにいるが、
西江氏ほど豊かな実質に満ちた旅を繰り返し、
なおかつ、その体験のひとつひとつを、
この一巻に収められたような極上の文章で書き綴ってきた人間は、
ほとんど皆無と言えるのではないだろうか。