率直かつ内容のある批評
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浄瑠璃研究者である内山先生の足跡を表している批評集です。もっとも辛辣で、かつ「なにをいうてるねん」と言われそうなのが学生時代の論評。おそらく耳学問、文字面だけの先入観を持った(すなわち自分の考えでなく多分に他人の批評に影響された)内容ですが、あとがきにもさらっと触れられていますが、勘違いもある内容でありながらちゃんと冒頭に掲載したところは評価できます。
二十歳そこそこのお姉さんが、当時の綱大夫をえらそうに評価し、越路を薄っぺらいみたいに論じるのは大変なことです。まあ、小生もパソコン通信時代にNiftyのサイトでいろいろ書いた経験がありますが、ここまで人生をすべて知ったような論ははれませんでした・・・。まあ、その当たりのさらけ出して、きちんとまとめたところが偉いと思います。
ただ、後年になるほど評価が甘いのはいかがでしょうか? 正直、玉男なき人形遣いは勘十郎以外これからオーラを発揮しそうな人はなく(もちろん簔助は別格ですが)、義太夫も咲大夫の年代は彼しかなくという状態で今度どうしていくべきかといった批評のまとめも別途出版してもらいたいものです。
熱くて厳しい劇評いっぱい!
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三業全てに関して
よくここまで書けるなぁ・・・っていうくらい
厳しい批評が並んでいます。
言われた方は言い返したいこともあるだろうし、
「わしらは大衆の芸をやってるんや、批評家が何ぬかしとんねん。」(前の勘十郎の言葉です)
とも思うでしょうが
ここまでの真剣な批評はやっぱり
文楽への本物の愛なくしてはできないでしょう。
一般に古典芸能の批評にありがちな
「私は昔の名人ダレソレを見た、今はそれに比べりゃなってない。」式の
どーしよーもない後ろ向きさは全くありません。
文楽によくなって欲しい、この面白さをぜひ伝えたい、という
著者の情熱にはじ〜んと来ちゃいます。
褒めてるときはまたほんとにいとおしげですもの。
好きなんだなぁ文楽が。
ただちょっと東京と大阪を対比させ過ぎみたいですが。
ともかく実見した文楽の記録として超貴重。
一級の資料として残るだろう立派な著作であることはマチガイなしです。