絶望し尽くした先に見える希望☆
★★★★★
やさしさや美しさ、そして醜さや弱さをわけることなく
人間そのものを見据えた作品を発表し続ける著者による初の短編集。
幽霊を見ることができる青年を主人公にした『月の下の子供』
執筆当時の筆者の(かなり危うい)精神状態が色濃く投影されたという『夜のざわめき』
ある日家に帰ると、部屋の中で見知らぬ犬が死んでいたことから始まる
数人の男たちをめぐる奇妙な物語『世界の果て』
など、孤独と諦めのなかに生きる主人公と
彼を取り巻く少し風変わりな環境を
重苦しさと奇妙な軽さが入り混じる筆致で描きます。
個人的に印象深い『戦争日和』は
近親交配をかさねたことによるペットの遺伝病
やさしさやを押し付けるベストセラーなど
今日的なトピックスを織り込んだ寓話色の強い作品。
突然、主人公を訪ねてきた男が口にする
「私たちのモヤモヤをね、早くミサイルにでも何でも込めて、飛ばして欲しいですね。」
「空が綺麗です。青空です。戦争日和ですね」
という言葉が、それほど遠い世界の言葉に薄ら寒くなりました。
各話が進むにつれ、
登場人物たちの混迷はどんどん濃くなりますが
最後に収められた『世界の果て』では
最後の最後に、うっすらと光明がさします。
そのため、読後に気分が重くなることはありません。
明るく楽しい話もいいけど
そうした健康さにちょっと付いていけない
―そんな気分の時には、こうした本を読んでみるのもいいかもしれません☆