そんで窓際の席に座りながら、この漫画を読むのが最高の楽しみだった。何気なく読み出したけど、ぐいぐいと、槇村さんが描く物語に引き付けられていった。
父親を亡くしたお嬢様。この楽天的で、前向きで、愛情いっぱいのキャラ設定(&いろんな表情)がグー。彼女の料理に対する姿勢、知識が、物語を引っ張っていく。そして町のレストランで働く天才シェフ、織田とのからみ。織田と対照的に華やかに生きるスターシェフ、高橋薫。そしてこの第1巻の終わり近くに出てくる御意見番のおばば、織田千代。このばあさんが絶品、最高。こういった人間模様が、まさにおいしいフルコース料理のディッシュのように展開されていく様は、漫画を読む醍醐味に溢れてます。
ちなみにこの漫画は、文庫サイズとかいろいろ出てるけど、このスタンダードなサイズの「ヤングユーコミックス」をオススメします。
長い物語だけに、幸せからの失墜はシビアに書かれる。自分を守っていた父親の死から、蝶よ、花よ、と育てられてきた母親の散財をしかりつけながら、将来に対して不安を描くところが丁寧に描かれている。
その絶望の中で、立ち寄った店の織田圭二の料理に百恵は涙ぐむ。後の巻で、愛情が形になって心にしみたと言っている。
僕はそこまで絶望に陥ったことはないけれど、おいしい料理が身にしみるとい!!うのはよくわかる。
僕の好きな千代婆の言葉に「一生のうちに食べるのは、80万回。ただ食べるだけならもったいない」という。僕もその意見に賛成だ。疲れて、腹に力が入らないとき、僕はおいしいものを食べるようにしている。高い料理じゃなくて、僕がおいしいと決めた料理店で。
自分の幸福になれるポイントは自分の意見で決めるのだ。それは雑誌やグルメ番組では得られないものだ。
百恵が師匠と認める織田は、馬鹿だの、あほだの、無能だの、口と技術の厳しい男だった。百恵は何度もやめてやろうとするが、その理由がわからなくて調べる。
織田圭二は「レストランに捨てられた子」だった。両親は最後の晩餐の後、自分達だけで自殺して、そのままだった。
千代婆「料理は才能がなきゃできん!!が、才気走った料理ほど味気ないものがない。それが圭二の限界だ」
それを知った百恵は、この男が気づくまで温かい料理を作り続けようと決心する。それは救われた自分の恩返しだったのかもしれない。
この作品は、食べることについて、食べさせることについて、それらが関わる生涯について、じっくりと描かれたお勧めの作品です。
笑ったり泣いたりしているうちに、少女の心をちょっぴり思い出したりもします。