宮崎の思想は、岸信介との関係は…?
★★★☆☆
本書は戦後の日本経済のモデルを形成した人物として、宮崎正義を措定し、その生涯を綴った伝記の嚆矢である。ただ、資料的限界は理解するものの、政治史、経済史という観点からみで、非常に不満足の多いものだ。最も大きな不満点は次の2つの集約される。
一つは、本書においても、宮崎が構想した日本型の統制経済を実際の経済制度として実現させた、いわゆる「革新官僚」群、就中、岸信介と宮崎正義の関係がほとんど記載されていないことだ。岸の動静には、それなりの紙幅は割かれているが、その記述において宮崎に触れられることはない。仮に宮崎と岸との間に直接的邂逅がなかったにしても、岸が宮崎の思想や構想をどのように吸収したのかという点について、実証的に明らかにする必要があるのではないか?
そうでなければ、宮崎の構想が、日本の経済システムの源流をなすという仮説は、著者の宮崎への単なる思い入れに過ぎなくなってしまう。勿論、状況証拠的には、宮崎と革新官僚群の思想的同一性を否定はしないが、それも次の欠陥により、直ちに肯定できない。
第2の欠陥は、そもそも宮崎の思想及び経済システムに関する構想が十分に開陳・分析されていないのである。唯一、比較的多く紙幅がさかれているのは、「資本と経営の分離」についてであるが、この点についても、本当に宮崎の思想から導き出されたものなのかどうかについて、はっきりとした記述がない。
また、個別の要素だけでなく、全体の経済システムの構想についても、はっきりしたことを読みとることは不可能だ。要は、宮崎の日本経済=日本国家観がはっきりと浮かび上がる論述になっておらず、当然のその背景の説明もないのである。
まずは、宮崎の動静を描きだすことを優先させたのであろうが、それにしても、本書は表面的に過ぎないか? 宮崎の思想や経済観を知るために、本書に目次等が記載されいる「日満財政経済研究会」の諸資料に直接当たれということなのであろうか。それならば、我々はなぜ本書に幾ばくかの金銭を支払わなければならないのだろうか。
本書により、「現代日本における経済史研究においては、宮崎自身に関する研究が未だ緒に就いたばかりであると同時に、昭和の時代における経済政策の形成過程についての研究も、未だ道半ばなのだ」と実感してしまうのである。