『源氏物語』に首位の座を譲る『枕草子』は、随筆というジャンルの嚆矢という点で意義深い。筋を通した物語と違って、千変万化、軽妙洒脱な筆致は、独自の味わいがある。「もののあはれ」にうち沈むことはない、明るさ・素直さはどうだろう。
「正月一日は、まいて空のけしきも…君をもわれをもいはひなどしたる、さまことにをかし」
このような【をかし】の文学である。人生の深刻さにのめり込む粘着性からさらりと身をかわした明るさ・軽妙さが快い。中宮定子に仕え、雅の生活の中で、物語的情に溺れず、クールに宮廷の人間と自然を見据えた『枕草子』その著名な章段の現代語訳と解説を施したのが本書。
「白馬（あをうま）（天皇が白馬を天覧する行事）を見に、というので、宮仕（みやづか）えをしていないしわれわれ里人（さとびと）は、牛車（ぎっしゃ）をきれいに装い立てて…」
活字も大きく、ルビ付き。年齢を越えて読める名著古典である。