学者が自然体で書いたエッセー
★★★★★
最近では『バカの壁』のベストセラーで一躍有名になった著者ですが、こちらは一昔前(文庫版で約10年前、単行本は私が大学生だった15年以上前!)のエッセイです。『バカの壁』に代表される近時の文章の方が表現が平易で読みやすい印象を一見受けるかもしれませんが、私自身にとっては文章として違和感ある箇所もあって、著者独特の文語体での語り口が半減しているような気がします。一方、こちらの『からだの見方』では著者の人となりも文章に滲み出ているので、いい意味で「学者が自然体で書いたエッセー」として好感が持てました。
養老先生の初期作品は面白い
★★★★★
初版は1988年の筑摩書房から出ているようです。
この本が養老先生の3作目だそうで、その前作は「ヒトの見方」「脳の中の過程」
あとがきで、「頼まれた原稿を素直に書いていたら、こういう本になってしまった」とあるが、いくつかは「自分の勝手で取り上げた主題である」書いている。前半部分は大分専門的で難しいのだが、後半部分に進むにつれて気楽に読めるように感じるのは自分だけであろうか? 特に研究室に研究費が足りないとか、ねずみを捕まえに台湾まで出向いて行くあたりの文章はまさに養老先生の当時の独白であろう。さらに研究費の寄付までお願いしてしまうところなど凄いです。
1995年に東大を退官を前に辞職するわけですが、文庫版のあとがきとして「たいへん懐かしい本である。なんだか知らないが、わけもわからず一生懸命働いていた時代の本だからである」と書かれている。
養老先生の本は初期作品の方がトンガっていて面白いように最近感じる。それは最近のモノが口述筆記によるものが多いからかもしれないが、東大在職中の滅茶苦茶に働いてかつ不満も沢山あった頃の感性がおいらには合っているのであろう。
それにしても養老先生の知識量は計り知れないと思う。
大学を辞める予兆あり
★★★☆☆
解剖学者の書いたエッセイ。現代社会で死は日常から遠のいたが著者には日常。そこからおもしろい話が出てくる。解剖教室や解剖用の遺体を引き取りに行く話など、作家なら短篇をいくつも書き上げてしまうだろうと思われる話が多い。個人的体験をあげると親類の葬式の時、死体の酸っぱい臭いをかいだ。それ以降、その人を思い出すと酸っぱい臭いが現実にしているようで困ったことがあった。本書で「意識化されにくい感覚」に嗅覚をあげていて、だからこそ「懐かしい記憶」になったり「多くの連想を呼び起こしたり」すると書いてあって、得心した。大学をやめることになる未来を予想させる記述もあり、著者の心情がストレートに出た本だと思う。