イタリアに長く暮らす歴史物語作家の著者が、国際情報誌「フォーサイト」に1994年春から1999年12月までに執筆したコラムを、1冊にまとめたエッセイ集である。その間、著者はローマに住みながら古代ローマの通史『ローマ人の物語』を執筆中で、そのかたわらに書かれたこのコラムでは、政治、経済、教育から、サッカー、ショッピングなど多岐にわたる話題を取り上げ、折々の世相や事件などに触発された思いがつづられている。
雑誌での掲載順をそのまま守った構成は、この5年間のできごとを走馬燈のようによみがえらせてくれる。日本では、阪神大震災、地下鉄サリン事件、ペルーの日本大使公邸人質事件、山一證券の廃業、サッカーのワールドカップ初出場などがあった。ダイアナ元妃やマザー・テレサの死、ユーロ誕生もこの期間のできごとである。それらに向けられた著者の所感は、日本の中にいたのではなかなか持ちにくい視点から述べられたものが多い。その鋭い見解が、ときに厳しく、ときに熱く響いてくる。
政治経済の改革に向けても、大胆な提言の数々が発せらているが、「最後に」の欄で「五年の間に書きつづったコラムの全文を読み返してみて愕然としている。私の提言が、どれ一つとして聴き容れられていないという事実に」と著者自身が嘆いている。政策としてすぐには実行しがたい提言はともあれ、「不景気とは、好景気を経験できた者しか襲わない、贅沢であると思うことだ」とし、現状維持に固執せず真のリストラ(再構築)をめざせといった提言は、景気の低迷にあえぎ、閉塞感に悩む現在の日本人に向けた、力強いエールである。著者の辛口のコメントに、ときには反感を抱くかもしれないが、読後には、心の芯を温めてくれるような、深い愛情を感じ取っているだろう。(加藤亜沙)
微妙
★★☆☆☆
塩野さんのならほかのエッセイのほうが私にはおもしろかった。 ちょっと全体的に硬すぎ。でもこういうのを求めてる人もいるだろうなとは思うけどすみません私はちょっとでした。難しくてもちょっとひねりがきいててユーモアがあったりとかでもなかった。
誰よりも日本を愛す
★★★★★
塩野さんは、誰よりも日本が大好きなのだろう。外国に住むと外国かぶれして根がなくなってしまう人が多いなか、塩野さんは日本人として、そして自分のアイデンティテイをしっかり認識しているから、あのような強くはっきり明瞭な文章が書けるのであろう。
日本の政治や行く末にもかなり憂慮されているが、単なる批判ではなく、批判するにしろ提言するにしろ理路整然としている。
理がかなっていてそれでいて柔軟。竹のような文章をかく人である。
ただ、日本の政治家たちをカエサルと比べるのはあまりにも可愛そうである。
歴史上に一人いるかいないかの天才と、日本の政治家では同じ土俵には上がれないし、同じルールも通じない。勿論カエサルをこよなく「愛する」塩野さんが一番ご存知だと思うが、
単に政治や世の中を非難する前に、どうすれば、そして何かよいのかを考えてみよう、という気になる本。そして日本のみならず、世の中の流れや歴史をどうとらえるか(イタリア参戦の事実、驚くほど喜劇で悲劇)気付かせてくれた一冊。
ローマに住む塩野女史からの日本への手紙。
★★★★★
歴史小説の大家の一人といって過言でない彼女の、2000年に出版されたコラム集。元々は国際情報誌『フォーサイト』に彼女が94年春から99年冬にかけて掲載されたもの。私は彼女の小説も好きだが、エッセイが特に好きだ。ずば抜けた歴史観、人生哲学が冴え渡っているので、リアルタイムに読むことが出来なかったことが残念だが、本としてまとめて出版された事によって、バブルが弾けた日本の現状をローマから母国を思う気持ちで書かれたこの書は、「何故日本はこんなに素晴らしい頭脳を持つ人を持ちながら、失われた10年をやり過ごしてしまったのだろう?」と思わずには居られない。特に、故・小渕総理と内密に二人で会談を持ったことがあり、助言を求められた云々のくだりは必読である。
日本人にして、日本を!ここまで客観的かつ愛情を持ってアドバイスをできる人が、今後も日本を見捨てずに、良書を生み出してくれることを切に願ってしまう。塩野さんの本を読んだことがない人も興味がないという人も、是非手にとって欲しい。
物語のために
★★★☆☆
現代日本への手紙と言えるかもしれません。私たちは目の前しか見ないけれど、著者は過去と現代との比較の中から警鐘を鳴らしています。 それにつけても、昔の指導者はなんて生き生きとしているのだろうか。「ローマ人の物語」はここから始まります。